「どうして?君達は惹かれ合ってたじゃないか。だからオレは……それなのに、なぜ?!」
シャルルは自分が身を引いたとはあえて言わずに言葉を濁した。
あたしの心の負担を考えてくれてるんだ。
「あんたのことが忘れられなくて」
シャルルは信じられないって顔であたしを見た。
「それを和矢に話したのか?」
あたしは首を横に振った。
「話してないわ。たぶん和矢はあたしの気持ちに気づいたんだと思う。好きだから別れるって言われたわ」
シャルルの瞳が切なげに揺れた。
「君は本当にそれで良かったの?あんなに和矢のことが好きだったじゃないか」
シャルルの言うようにあたしは和矢が本当に好きだった。今でもほんのりと温かい感情のようなものはあるわ。
でもそれはシャルルへの思いとは違う種類のもの。
「あたしの中でシャルルの存在がどんどん大きくなって、一緒にいても和矢に申し訳ないって気持ちがずっとあったわ。でもなかなか言い出せなかった。だから別れようって言われた時は胸が痛んだの。最後まで和矢に嫌な役回りをさせちゃったなって。あたしは最後まで何も言えなかった。ありがとうも、ごめんねも何も……」
あたしが言葉を詰まらせていると、シャルルがふわりとあたしを包み込んだ。
和矢の気持ちを考えたら胸が苦しかった。
でも和矢はもっと辛かったはずだわ。
「本当にオレでいいの?」
あたしはコクリと頷いた。
シャルルはあたしをそっと引き剥がすと、愛おしさが溢れる瞳で覗き込んだ。
「もう二度と離してやれないけど、それでも後悔しない?」
あたしを信じられないのはわかってる。
でも二度と間違えたりしないわ。
あたしは誰が大切なのか、好きなのか。
「シャルルがいいの。あんたじゃなきゃ駄目なの」
「マリナ……」
シャルルは躊躇いながらもゆっくりと頬を傾けた。重ねられた唇はいつかのように短く、そして少し震えていた。
「君が相手だと思うとだめだ」
するとアデリーヌが咳払いを一つした。
「そういうことは本家に帰ってからにしてくれる?」
アデリーヌの言葉にあたし達は顔を見合わせた。他にも周りに人が居たことをすっかり忘れてたわ。
「そうだな。それに一つ大切なことを忘れていた。いや、忘れていたというよりはオレが忘れようとしていたって方が近いかな。さすがに胸が騒ぐはずだ。あの時は気づかなったけど」
「何のこと?」
「いや、思い出さなくていい」
「何よ、気になるじゃない」
「気にするな」
急にシャルルが不機嫌になった。
「教えてよ。何?」
「ごめん、もういいから」
隠されると知りたくなるのが人間ってもんよ。
「あたしは良くないわ。ちゃんと言ってよ」
するとシャルルは深いため息をついた。
「フレデリックの処分をジルに任せたままにしてある」
あっ……!
つづく