きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛のかけらを掴むまで 15


それってまさか。
あたしはシャルルの腕の中から抜け出し、シャルルを見上げた。
そこへ救急隊の人達が駆けつけてきた。


「ケガをしたのはどちらの方ですか?」


一気に緊迫した空気に包まれた。
すると救急隊の人にシャルルがフランス語で答えた。


ーー何も問題はなさそうだ。引き上げてくれて結構だーー


ーーしかし、通報があった以上は我々としてもーー


ーー私は医者だ。医師の私の判断で検査は不要だと言っているのだがーー


この救急隊の人とのやり取りがフランス語と日本語で同時に耳に流れ込んできた。
着けていたことを思い出して、イヤリングにそっと手で触れてみた。
シャルルがあたしのために作ってくれた世界にひとつだけの物。
救急隊の人達は不満げに引き上げて行った。わざわざ駆けつけたのにあんな風に言われたらそりゃ怒るわよ。
ごめんの一言があってもいいんじゃないかと思っていると、シャルルはあたしを立ち上がらせ、自分もさっと立ち上がった。


「それを部屋で見つけた時、いつ、何のために作ったのか自分でもわからなかった。
気まぐれに作っただけなのかもしれないとずっと引き出しの奥にしまい込んでいた。
だが君と過ごすうちに、オレは君のためにこれを作ったんじゃないかと思い始めていた。オルレアンに行くと決めた時にオレはそれを確かめようと思って持ち出したんだ。君にそれを見せたら何か反応するかもしれないと思ってね。案の定、君はこれをイヤリングではなく翻訳機だと認識した。君はこの存在を知っていたというわけだ。
なぜそれがオレの元に残ったままなのかという疑問は残ったままだったけどね。君が重要な立ち位置だと再認識しながら、さっき君を見送ったんだが、戻ってきた君はオレの想像をはるかに超えてきた。すべての答えをオレに指し示したんだ。さすがだよ、マリナちゃん」


あたしは息を飲んだ。
やっぱりシャルルは……!


「思い……出したの?」


優しさが降り注ぐような顔でシャルルはあたしを見つめた。


「あぁ。君だけは守らなきゃと思って必死になっているうちに何もかもね」


その言葉にあたしは込み上げてくる感情にむせ返りそうになった。


「遅いのよ……」

あたしは泣きそうになるのを必死にこらえて笑ってみせた。

「ごめん」


交わされた短い言葉の中にはたくさんの思いが溢れていた。
シャルルに話したいことがいっぱいある。
これまでずっと言えなかったこともやっと伝えられる。


「まさか飛びかかって来るとは思わなかったから体勢を崩した。どこも痛くない?」


「痛かったわよ」


「どこ?」


シャルルはあたしの全身を確認するように見た。
あたしは自分の胸に手を置いた。


「ここよ。ここが痛かった。苦しかったし、辛かった」


「すまない。まさか君のことを忘れてしまうとはね」


「本当よ。初めて会った時もひどかったけど、今回もずいぶんな扱いだったわ」


シャルルは少し困った顔をした。


「でも君だけだよ」


「何が?」


「最初の印象が最悪なのに、気になって仕方がないって思った人間は後にも先にも、マリナだけだったよ。オレは知らず知らずのうちにまた君に……」


そこでシャルルは言葉を飲み込んだ。
口にしてしまったら戻れなくなると言いたげに瞳が切なげに揺れた。
記憶は戻ってもシャルルの時は止まったままだからだ。
あたしはシャルルに向き直った。


「和矢とは別れたの」

 


つづく