きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

夢の果てに 17

 

マリナの動向を調べるうちに和矢と別れていたという事実を知った。
漫画は相変わらず売れていないようだったが、ジルがお節介にも日本からマリナの作品が載っている雑誌を取り寄せるようになったのもその頃だった。
それも数ヶ月に1.2冊ほどで、内容もつまらない物だった。
転機が訪れたのはそれからすぐだった。
BLと呼ばれる男性同士の恋愛を扱うようになった途端、売れ出したらしい。内容は絡みこそないが、じれったく、なかなか進展しない恋愛のあれこれを描いたものでその中に登場する一人がオレだった。
和矢と別れた原因はここにあるのか?

料理が並べられ、ワインでも飲みながらその辺りを手がかりに核心に迫ろうとした所、急にマリナが感情を吐き出し始めた。
オレが妻だけを先に帰らせてマリナの所へ来たと怒っているようだ。
食事をしながらじっくりと話すつもりだったが、さて始めるか。
今さら友達に戻れないとマリナが言った瞬間、オレは確信した。
和矢と別れた原因はこれか?
さらに踏み込んでマリナに揺さぶりをかけた。すれ違いが理由だと言っているが、話がずいぶんと曖昧だ。
おそらく嘘なんだろう。
視線を合わせない辺りもそれを裏付けているようだった。
マリナの心変わりが原因だとすれば、ここでオレが和矢を一方的に攻撃すれば、きっとマリナそれを否定するはずだ。
さらに和矢を責める言葉をオレは続けた。

「和矢はあたしに頑張れって、シャルルならきっと……」

するとマリナが綻びを見せた。

「オレならきっと、何?」

すかさずオレは切り返した。
綻ばぬようにと気を張っていたのだろう。
マリナの表情に諦めの色が広がった。

「結婚してるから言えない」

ビンゴだ。
だが、ここからだ。

「なぜ?」

さらにオレは先の言葉を要求した。
オレが結婚していたとしても、それを越えるまでの想いなのかを知りたい。

「奥さんがいる人に言えるわけないでしょ」

半ば苛立ちながらマリナは言った。

「では、オレが妻とは別れると言ったら?」

「なっ……何言ってんの?!子供だっているんでしょ!簡単に言わないでよ!」

「簡単ではないが、彼女達の生活の保証はきちんとする」

もしオレに本当に家族がいたとしても今と同じことが言えるだろうか。
ふと自身に問いかけた。

「前にも言ったはずだ。君だけを永遠に愛するとね。その気持ちは今も変わらない」

その瞬間、マリナの瞳に涙が溢れた。
オレの言葉に心が揺れているのだ。
さて、とどめと行くか。

「君はオレが好きではないのか?結婚してると分かったら簡単に引き下がれる程度のものなのか?!」

マリナは溢れ出す涙を押し込むようにぎゅっと目を瞑り、それからオレをまっすぐに見つめた。

「好きよ!忘れられなくて苦しいほど好きよ。でも引き下がるしかないじゃない。誰かを不幸にしてまでなんてできない」

この言葉にオレは堪らずにマリナの体を抱き寄せた。
わずかに抵抗する素振りは見せたが、マリナはすぐにオレに身を委ねた。

「だったらあの言葉は、君を永遠に愛すると言った言葉はこの場で撤回しよう。これからは妻だけを愛する。それで君の良心は満足か?」

オレの胸の中でマリナが肩を震わせている。迷っているのだろう。
追い討ちを掛けるように言葉を続けた。

「誰も不幸にならないとしたら?それでも君はオレに他の女性を愛せと言うのか?それで君はいいのか?やはりあの時と同じように一時の感情なのか?!」

「違うわ!この気持ちは本当よ。あんたが他の人を好きになるなんて……本当は嫌。あたしだけを見て、あたしだけを愛してほしい。でも、誰かの不幸の上に立つのが怖い」

結婚という大きな壁を越え、自分だけを愛して欲しいとマリナは言った。
マリナの思いがオレの心を解かしていく。

「マリナ、一緒にパリに来ないか?」

体を離し、涙に濡れた頬をそっと拭ってやる。

「本当に離婚……するの?」

弱々しい声でマリナが言った。
これ以上の仮想はもう必要ない。

「一昨年結婚したのはジルだ。オレじゃない」

「えっ?」

「ジルからの電話で君が誤解したと知って、オレは君の思いを見極めたくて敢えて否定するのはやめた。結婚してると知っても尚、オレを求めてくれるのかを知りたかった」

「それじゃ、あんたは結婚してないってこと?」

その問いにオレはゆっくりと頷いた。

 


つづく