シャルルは結婚してない?!
そうだ、あの電話!
あたしはてっきりシャルルが奥さんと話してるんだと思い込んじゃったけどジルだったんだ。
結婚してるって聞いた時、もう二度と手の届かない所へ行ってしまったんだと思った。
あたしは手を伸ばし、シャルルの手をとった。
少し冷たい。
この手は大切な誰かに触れたり、抱き寄せたりしてるんだって思ってた。
でも、そうじゃなかった。
あたしはまだ失ってなかったんだ。
「結婚してるって言ったこと、怒らないのか?」
シャルルがあたしを信じ切れないのあたしのせいだわ。シャルルを好きだと口にしておきながら、和矢と再会した途端、あたしの心は和矢でいっぱいになってしまった。
シャルルがそれをどんな思いで見ていたのかを考えれば当然のことだと思う。
あたしを試しながらも、きっとシャルルも自分自身と戦っていたはずだわ。
あたしにシャルルを責める権利なんてないわ。
「怒れないわ。だってそうさせたのはあたしだもの」
「マリナ……」
その瞬間、繋いでいた手を引かれて、あたしはシャルルの胸に包まれた。
さっきまでの後ろめたさはもうない。
あたしもシャルルの体を包み込むように腕を回した。
温かい。
ここに戻って来ることができたんだ。
**
シャルルが用意してくれた夕飯を食べることにした。
「シャルルがキッチンに立つなんて想像つかないわ」
「レンジで温め直してるだけだよ」
シャルルがふわりと笑った。
「でも何だか新鮮」
あたしは温め終えたお皿を受け取ってテーブルに運んでいく。
「君のためなら何でもする。命さえ投げ出せるよ」
次のお皿を受け取りにあたしがカウンターを回り込んだところでシャルルは手を止めて言った。
「物騒なこと言わないでよ。もうあんたを失いたくないもん」
するとシャルルはスープを温めていた手鍋のスイッチを切った。
「そんな事を言ってると、また料理が冷めてしまうよ」
「え?」
シャルルの手がすっと伸びて、あたしを引き寄せた。見上げるとシャルルの真剣な顔があった。
これは……!
そう思った次の瞬間、シャルルは目を閉じて頬を傾けてきた。
突然の甘い雰囲気にあたしは焦って、思わず自分の口を手で塞いだ。
「また、無理やりする?」
冗談っぽくシャルルが言った。あたしは首をぶんぶん振った。
「だったら、その手を退かして」
あたしはおずおずと手を外して、ぎゅっと目を瞑って待った。
だけど待てど暮らせど何も来ない。そっと目を開けてみると、シャルルはくすりと笑った。
「そんなに身構えられたら、やりずらい」
そう言うとシャルルはあたしから離れて、何ごともなかったかのように手鍋を持ってスープを器に注ぎ始めた。
「し、しないの?」
「今は、やめておくよ」
「今はって……」
するとシャルルは頬をわずかに赤くした。
「ちょっ……て、照れないでよ」
僅かな沈黙の後、何とも言えない空気に包まれた。あんたが照れたらこっちまで恥ずかしいじゃない。
「今、始めたら止められる自信がない。それでもよければ。その代わりこれは明日の朝食になる」
待って、それは。
まだ心の準備がっっ……。
つづく