パーティーで予定していた婚約発表は相手の女性の体調が優れないため延期させてもらうことにしたと来客者には伝えた。数人の男性客からは今どきは珍しくないからと肩を叩かれた。元老院のバチスト議員に至っては祖父の話まで持ち出してきた。どれもこの場限りの話だから特に否定もせず、適当にやり過ごした。
これまでもオレの相手が誰なのかと囁かれていたようだが、まさか婚約相手を変えようとしてるだなんて誰も想像していないだろう。
しかしマリナとの再会が婚約発表の前だったことは幸いだった。それにウォンヌ家との交渉が必要なかったことも大きい。
問題は親族会議で長老達にどう認めさせるかだ。最後の切り札はできれば温存しておきたいところだがマリナとミシェルの件を同時に議題に挙げるとなるとそうも言ってられないか。
来客者の見送りを終えるとオレは私室へ急いだ。長く待たせすぎたせいでマリナが消えてしまっていないかと、そんなことはないとわかっているが不安になる。
静脈認証を解除し、部屋に入るとマリナは落ち着かない様子でソファにちょこんと座っていた。
「おかえり、シャルル」
心地よい響きに脳内が痺れる感覚がした。
誰かの待つ部屋には温もりが感じられる。しかもその相手がマリナだという事実にオレは震えた。
「パリに来たばかりなのに、一人にしてすまない」
オレは吸い寄せられるようにマリナの隣に座った。この先も一人にしてしまうことは多くなるだろう。君と共に歩むためのオレの切り札は、おそらくオレ達が共に過ごす時間を奪うものだ。
「ううん」
短くそう答えたマリナの髪を撫でた。
今はまだ伏せておこう。
決まったわけではない。
その時が来るまでマリナとの時間を大切にするだけだ。
「マリナ、これからも君とずっと一緒にいたい」
両頬を包み込むように語りかけると、マリナは目に涙をいっぱい溜めた。
「あんたが誰かを好きになったってテレビで知った時、すごく苦しかった。いつの間にか私の中であんたの存在が大きくなってて、、」
抱えていた想いを吐き出した瞬間にマリナの目から涙がこぼれ落ちた。
「君だけを永遠に愛していると言ったのは忘れたのかい?」
「……っ!!」
その瞬間にマリナの声にならない声をオレは自分の腕の中で聞いた。
「婚約はあくまでも当主になるための手段だ。愛のない形ばかりのものに君が苦しむ必要なんてない」
「シャルル……」
腕の中にいるマリナにオレはあの時と同じ言葉を口にした。
「式はランスの教会だ」
するとマリナはハッとしたようにオレを見上げた。
「これって、あの時と同じ……」
「世界を回って今度こそ月まで行くよ。それにあの時、君は寝てしまったけれどーー」
「あ……っ」
これから自分の身に何が起きるのかを悟ったのかマリナは体を固くした。
「今夜、君をオレのものにする」
そのままソファにマリナを押し倒した。
「ちょ、待ってシャルル。ここじゃ……いや」
恥ずかしそうにしているマリナが可愛い。からかうだけのつもりが、抑えられなくなりそうだ。
「じゃ、どこならいい?ここでも十分広いけど」
「それは、その、ベットの方が……」
「では寝室へ行こう」
オレはマリナを抱き上げてそのまま寝室へと向かった。するとマリナが恥じらいながら小さな声で言った。
「あの、シャルル。あたしこういうの初めてだから、優しく……してよ」
嘘だろ……?
いや、疑っているわけではないが、まさかあいつは何もしなかったのか?
「シャルル?」
声をかけられて自分が立ち止まっていたことに気づいた。
小菅での朝、まさかこんな日が来るとは思いもしなかった。
「君はオレを狂わせたいのか?」
「え?」
そのまま寝室に向かい、ベットに傾れ込むようにマリナを押し倒した。
「あんなこと言われてオレが抑えられると思ったのか?」
「え?!待って。いや、違うってば」
つづく
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みなさん、こんにちは!
この後の大人の展開を挟もうかどうしようかと考え中🤔
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