玄関ホールに差し掛かった時、オレを呼ぶ声が聞こえた。
「ミシェルーーっ!
何処に行くつもりなのよーっ!」
速度を落としてマリナとの距離を保ちながらアルディの敷地を出るのはおそらく無理だ。マリナに合わせていたら警備に追いつかれる。
「ここまでか……。」
そんな言葉がオレから溢れ出した。
いや、本気だったわけじゃない。ほんのゲームだ。その気になれば綿密な計画を立てる事は出来る。
そこまでしなかったのはマリナの心がオレにないと分かっていたからかもしれない。
ここから一番近いのは西側の門だ。
そこまで行けば何とかなる。
ジルが警備を呼ばなければマリナと共にこの門をくぐるつもりだった。
ポツン…。
一つ二つと雨粒がオレの肩を濡らし始めた。マリナはまだオレを追ってきているのだろうか。それともすでにジルに保護されたのか。
雨に濡れていなければいいんだが…。
自然と足が止まっていた。
少しの期待を抱えながら振り返ると静まり返った木々たちを冷たい雨が湿らせているばかりだった。
マリナがオレのスピードについて来れるはずもないか…。
オレは身を翻して門へと走り出した。
門脇には青のプジョーが見えた。
あれか…。
助手席のドアが中から開けられオレは素早く乗り込んだ。
「一人なのか?」
「ああ。いいから出せ。」
「オレのアパルトマンでいいのか?」
「あぁ。」
ほどなくしてアパルトマンが見えてきた。マリナとのキスが思い出された。
今までに味わったことのない甘美な世界を見せられたのもこの場所だった。
窓の外を眺めて思いふけっていると急ブレーキに体が持っていかれて現実に帰る。
「なんだっ?」
「アパルトマンの前に物騒な車が停まってる。」
「こっちの動きが読まれていたようだな。オレはここで降りる。お前も好きにしてくれ。」
オレを降ろすとマルクは車を走らせ見えなくなった。
オレが黒塗りのベンツに近づくと助手席からブリスが姿を見せた。
オレに傘を差し向けながら
「ミシェル様、シャルル様よりアルディ家へ連れ戻すようにとのことです。」
オレが不審な顔を見せるとオレの心を読んだのかブリスが続けた。
「シャルル様の命により孤島への強制移送は撤回されました。
これよりミシェル様をアルディ家へお連れします。」
シャルルはオレを呼び戻してどうするつもりだ。全容解明か、それとも拷問か…。どちらにせよ、ただでは済まないだろうな。
オレは開けられた後部座席へと乗り込んだ。
「出せ。」
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みなさん、こんにちは!
ミシェルの登場でした。意外と雨に濡れてはいませんでしたね(笑)
最後まで読んでくれてありがとうございます。
夜だけの仕事のはずが急遽、応援要請を受けて電車の中でここまで何とか書き終わりました。帰りの電車で続きを書こうと思います。