「モザンビーク基金への資金提供がタイの企業や資産家を中心に今ではフランスを含めた世界中から集まっています」
タブレット画像にはナイフを手に襲いかかってくる男と、少女を庇って怪我を負ったマリナ、そして駆けつけるオレの姿が映っていた。あの場にいた誰かがスクープ画像としてSNSで投稿したのか。
タイからの資金提供という言葉も引っかかるな。
たしかにアジア圏の中でもタイ王国の経済は確かに伸びてる。GDP成長率ははここ数年6%前後を維持し、インフレも一定の数値で抑えられている。近年では国内の鉱業に加え、外国への援助や投資も新たな経済構造として組み入れた結果、さらなる発展と未知の可能性が目覚ましい国だ。
だがアフリカ大陸南東に位置するモザンビークへの支援となると理由がわからない。
「ネット上でマリナさんの行動に称賛の声が上がっています。しかもマリナさんはシャルルのお相手ではないかとの憶測も飛んでいます」
パーティーで婚約者は体調が優れないと話したことを裏付けるような話になったな。これではパーティーの参加者達はマリナが婚約相手で、この事件のせいで発表が延期になったと思った者も多いだろう。
「アルディの未来を左右するかもしれない重大な問題が発生したため会議は中断させてもらう」
親族達がざわつく中、
「シャルル、どういうことだ?」
隣でルパートが厳しい表情をオレに向けた。
「元はと言えば、寝ていた子を起こしたのは君だ。その責任としてこの場はうまく収めてもらおうか」
そう言い残し、オレは会議室を後にした。
すぐにモザンビーク基金へアクセスし、状況を確認した。
確かにこれまでとは比べものにならない数億もの資金が集まっている。今もサーバーへのアクセス集中による503エラー寸前だ。早急にロードバランサでサーバーの振り分けをする必要がある。
このままの勢いだと目標額の2/3まであとわずかだ。
「すぐにロードバランサの設置をし、サーバーダウンの回避と拡張の手配を急ぎます」
「その必要はないはずだ」
「ですがこのままではシステムがダウンし、その間の機会損失が」
隣を歩くジルが怪訝な顔をした。
「それも含めてすでに対策済みだろう。オレがもし同じ立場なら交渉に必要な材料はすべて整えた状態にするだろうしな」
「まさか」
「オレのよみが正しければ、そのまさかだ。一体何が望みなのか」
オレは重厚な扉の前に立つ。
ノックをすると中からゆっくりと扉が開いた。
「ここまで楽しんでもらえたかい?」
「ずいぶんと回りくどい方法だったが、一体何が望みだ?アルディ家の当主の座がまた欲しくなったのか?」
「いや、そんなものに興味はない」
そう言ってミシェルは部屋の中を振り返った。
「レンをロワールへ連れて行く」
つづく