きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢 12

オレの声に野次馬たちは次々と振り返り、慌てて互いを押し合いながら道を開けた。人集りの中、ぽっかりと空いた空間の先に見えたのは少女に覆いかぶさるように倒れている愛しい人の姿だった。


「マリナっっ!オレがわかるか?」


オレは駆け寄り、意識の有無をたしかめた。


「シャルル……」


オレの足元には点々と鮮血が落ちている。出血は少女とマリナのどちらだ?それとも二人ともか?!
色と量から見て毛細血管からの出血だ。致命傷でないことにひとまず安堵する。


「ケガは?!どこが痛む?」


マリナは少女を気にかけながら体を起こし、その場に座った。


「左腕が少し、痛い」


押さえている左腕の袖口にはかなりの血が滲んでいる。
左前腕部か?刺創かそれとも切創?
すぐに止血しなければならない。


「もう大丈夫だ。オレがいるから安心して」


隣で少女が起き上がり、すっくと立ち上がるとそこへ母親らしき女性が駆け寄ってきた。


「タラカン!」


この親娘はタイ人か?


「君はケガは?」


タイ語で問うと少女は首を振り、大丈夫ですと答えた。


「アリガ、トウ」


ラカンと呼ばれた少女はマリナにぎこちない日本語で礼を言った。


「大丈夫?ケガはない?」


マリナが声をかけたが少女は日本語が分からなかったのだろう、ペコリとお辞儀をすると母親に抱きついた。
こっちは大丈夫そうだな。オレは駆けつけた空港警備に親娘を託し、マリナを抱え上げた。


「私は医者だ。ケガ人がいる。メディカルセンターへ案内してくれ」


「シャルル、あたし歩けるから」


「だめだ。出血してるんだから大丈夫じゃないだろ」


「でも……」


マリナは何か言いたげだったが、自分の袖口に付いた血を見て驚いた顔をした。無理もない。今は事件直後で興奮状態にあるためそこまで痛みを感じていないんだろうが、出血量はそれなりにある。オレはそのまま有無を言わせず歩き出した。
状況から見てマリナは何らかの脅威から少女を庇ってケガをしたのだろう。犯人は人混みにまぎれて逃げたのか、オレが駆けつけた時にはそれらしい人物はいなかった。しかしこれだけの人が見ている中、そう簡単に逃げられるものだろうか。

 


空港のメディカルセンターの多くは応急処置程度の器具と初歩的な内科医療の設備しかないのが普通だ。マリナの状態によっては近くの病院へ連れて行くことも考えなければならない。
メディカルセンターに着くとすぐにオレは日本国内でも医療行為が行える国際ドクター免許を担当医師に提示し、設備を使わせてもらいたい旨を伝えた。


「私は朝桐と言います。国際免許をお持ちの方にお会いするのは初めてです。日仏間ではたしか登録枠は二名でしたか」


「アルディです。以前、東桜大病院の脳幹網様体のへのアクセスによる移植と拒絶反応においての臨床試験チームに参加した時に取得したものです」


朝桐医師は脳外科にはあまり興味がないらしくそれ以上は何も聞いてこなかった。


「簡単な器具しかありませんがどうぞ使ってください。私は向こうで書類の整理をしているので終わったら声をかけて下さい」


「わかりました。助かります」


医師が診察室を出て行ったところで、座らせていたマリナに向き直った。


「出血箇所の特定と場合によっては縫合処置をするよ」


マリナが怖がらないように目線に合わせるようにオレはかがみ込んで説明をしたが、マリナはそわそわと落ち着かない様子だった。


「ひどく痛むなら先に局所麻酔をしよう」


オレは薬瓶の並ぶ処置棚を探っていると後ろでマリナがコートを脱ぎ出した。


「おい、勝手に動くなよ」


オレは焦ってマリナの元へ戻った。


「でも、見てこれ」


そういうとマリナは血のついたセーターの袖を捲ってオレに見せた。
オレはマリナの腕を見て目を見張った。


「どういうことだ?」

 

 


つづく