きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢 11

機体が大きく揺れ、着陸と同時に下から突き上げるような振動がシート越しに伝わって来た。オレは深く息を吐く。
無意識のうちにストレス・マネジメントを自らに施していた。
こんな事でもなければ日本に来ることはなかっただろう。そして突然降って湧いたような今回の話だ。
どう向き合うべきか正直迷った。
当主としての立場やこの先のモザンビーク支援のことを考えればリスクは高い。
だが、マリナを連れて12時の便でパリへ戻ればパーティーに遅れはするがどうにかなる。


飛行機は予定通り9時に羽田へ到着した。
ファーストクラスとはいえプライベートジェットとは快適さも利便性も格段に違う。
ミシェルがあの手紙をもっと早くオレに渡していれば違っていたはずだ。
プライベートジェットを飛ばすには最低でも数日は必要だ。国際民間航空(ICAO)締約の国籍間では航空予定期日の10日前までに申請しなければならない。
緊急の医療の場合でさえ3日前だ。
しかも受付は午前9時〜16時と短く、昨夜ミシェルからの手紙を受け取った時はすでに約束の前日、航空会社の便を押さえるのがせいぜいだ。
当然ミシェルもそこまで考えての行動だったはずだ。プライベートジェットを使わせないというよりは時間的な余裕を奪うといった意味合いが強かったのだろう。
手紙に記されていた待ち合わせ場所は国際線到着ロビーから一番近い時計台の前。手続きを済ませて向かったが、まだマリナの姿はなかった。
約束の時間まであと20分か。
ここは待ち合わせの定番のようだ。知人を探して辺りを見回している人間が多い。それらの視線がいちいちオレで留まるのが鬱陶しい。
人の目を引くことには慣れているがあまり目立つことはしたくない。オレは時計台の見える壁際へとゆっくりと移動し、行き交う人々の中から唯一の姿を探す。


何度目かの視線を時計台へと向けた。
10時になったがマリナの姿はない。
辺りをゆっくり歩きながら国際線ターミナルにある4つの時計台のすべてを見て回ったが、やはりマリナを見つけることはできなかった。
まさか間違えて国内線の方にいるのか?マリナならあり得るな。
近くのANEサービスカウンターで国際線ターミナルへ来るように呼び出しを依頼した。こういう時は下手に動き回るのはよくない。だが10分経っても状況は変わらずだ。
遅延情報を確認したがどこも平常運転だ。つまり寝過ごしたか、あるいは本人の意思で来ていないかのどちらかか。
12時まであと1時間半、アパートまで行ってみるか。だがせいぜい往復するのが限界だな。搭乗手続きの時間も考えると間に合わない。一人で帰るか、それとも迎えに行ってパーティーを中止にするか。
その時、悲鳴のようなものが聞こえてきた。サテライトの方か?!
ここが空港だけに何かいやな予感がする。
オレは走り出した。
数メートル先に大きな人集りができている。やはり何かあったようだ。
事件か事故か、それとも急病人か?人混みの間から少女と女性が倒れているのが見えた。


「通してくれ、私は医者だ」

 

 


つづく