きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

いつかの君を忘れない 16


マリナの病室へ戻る前にマルクを担当している医師の元へ行き、オレはカルテを確認させてもらった。 
炎症による腫脹は抗生剤のおかげで治まってきている。
骨癒合まではあと二週間といったところか。若い分、癒合はもう少し早いかもしれないな。
腹部エコーからは内臓の損傷は見られなかった。打撲だけで済んだのは奇跡だな。
これならヘリで運べないこともないか。
アルディの医務室で治療を続けることもできるが、二人を近づければその分、絆は深まり、戻れない所まで行くだろう。
それをオレは目の前で見ていられるのか?


医局を出た所でジルとばったり出会した。


「わざわざ来たのか?」


「ええ、ヘリを使えばすぐなので。それに二人のその後も気になっていましたし、何よりあなたが心配で」


ジルは言いながら資料をオレにポンと寄越した。


「マルク・エルナルド23歳。両親とは同居しており、パリ市内在住。父親はアストス製薬の役員を務め、母親は弁護士。本人はソルボンヌ大学を卒業後、アルディグループへ。友人知人からも悪い話は一つも出てきませんでした」


ざっと目を通したが、オレの記憶していた物と大して変わりはなかった。


「この短時間でよく調べたな」


「あなたと同じ血のおかげでしょうか」


「埃は出ないか……」


「シャルルの思い過ごしではないのですか?二人の間に確かに絆は生まれたかもしれませが、それが短期間ですぐに恋愛に直結するとは思えません」


「時間は関係ない。ほんの一瞬、ふとした瞬間に芽吹くものだ。証拠はないが」


「それならいっそのこと、二人をアルディ家へ連れて行って見極めてはいかがですか?二人の間に存在するのは友情なのか、愛情なのか」


「君にはサイコパス気質があったか?」


「ご自身の目で確かめるべきだと。それに二人の心配ではなく、今、成すべきはマリナさんの中に眠るあなたを呼び起こすことです。スタートラインに立たずしてゴールはありません」


「今日は一段と厳しいな」


ジルはオレの手から資料を取り返すと、


「もしシャルルの言う通りだとしたら、マリナさんには公平なジャッジをさせてあげたいのです。あなたを思い出した上でマルクが良いと言うなら私はマリナさんの味方ですわ」


「君はオレの参謀ではなかったのか?」


するとジルは目を細めて笑みを浮かべた。


「だからここまで伝えに来たのです」


長い間、オレを見てきたジルだからこその言葉だった。オレの迷いや後悔を理解し、わざわざ足を運んだのだ。


ジルに背中を押され、いつマリナの記憶が戻るのかではなく、戻させるには何をすべきなのかを考えた。
これまでオレは医師としての見解を中心に考えていた。それこそ、いつ記憶が戻るかはわからないのだと。
それに囚われ過ぎていた。
単に記憶の蓄積を行うシナプスを呼び起こせばいいのだ。
途切れてしまった記憶を繋ぐ物が何かは探っていくしかないが、場所や匂い、味覚などからもアクセスは可能だ。何がきっかけになるか分からないなら、より多くの時間を共に過ごし、マリナの反応を見ながら記憶の想起に繋がるものを見極めて行けばいい。その為にはマリナをパリに連れていくのが一番だ。
だがオレがマリナの両親を説得するのは難しいだろう。だったらマリナ自身にパリに行きたいと言わせればいい。
マルクとの話ではマリナもそれを望んでいた。
だったらオレがすべきことは、その望みを叶えてやればいいだけだ。

 


つづく