きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢 10

結局、オレ達は朝まで眠らずに過ごした。隣で身支度を整えているレンは時おり、痛む体を庇っているように見えた。本人は隠しているつもりだろうが、辛いのは見ていればわかる。

「今日はずっとジルと一緒か?」

「いえ、午前のみです。午後は警備システムのプログラミングの書き換えをするようにと今朝連絡がありました」


9時にシャルルがアルディ家を出る。このタイミングでオレはシャルルに成り代わる。すぐには気づかれないようにシャルルがパリを発つまではオレからジルを遠ざける必要があった。一緒にいれば時間の問題で気づかれて妨害されかねないからな。
だからジルにはレンと警備に関する打ち合わせをするようにシャルルから指示をさせておいた。


「それならジルの世話が終わったら午後は休め。システムの書き換えはオレが代わりにしておく」

「そんなことできません。だいいちパソコンもない部屋でどうやってするつもりですか?」


「午後になればその理由もわかるさ」


これからジルと接触するレンには今は何も話せない。レンの動揺から計画が乱れるのは困る。
シャルルがパリを出てしまえばあとはどうとでもなる。
どうせオレはシャルルの代わりに執務室で仕事をしているんだ。もともとあのシステムを解除したのもオレだ。あの程度のプログラムならそれほど時間もかからずに終わらせられる。
やはりレンに無理はさせたくない。
明日の本番を迎えるまではいつものようにそばには居られない。
だからせめてこのぐらいはしてやりたい。


執務室の時計の正午を知らせる鐘を聞き、オレは窓の外を見上げた。
ドゴールは東か。
シャルルの乗った飛行機が見えるわけではないが第一段階は無事に突破できたことに胸を撫で下ろした。
これにはオレとレンのロワール行きもかかっているからな。
ふと中庭に目を落とした。
あれはレンか?それに……。
そうか。そばにジルはもういない。きっともう別行動になったのだろう。
早く部屋に戻って休めと心の中で呟いていたらレンの体が一瞬フラッとよろめいた。


「おい……っ!」


階段をかけ下り、中央玄関脇のドアから中庭に続くゆるやかなカーブを描く石畳を走った。大きな木に背を預ける格好で寄りかかっているレンの姿を見つけた。


「レンっ!大丈夫か?!」


「シャ……?ミ、ミシェっっ!?」


慌てて駆け寄り、レンの口を手で塞いだ。
ここで名前を呼ばれてはまずい。服は完全にシャルルの物だからパッと見ただけではオレはシャルルだ。
レンもシャルルの服を着たオレを見て驚いている。


「すいません、少し眩暈がしただけです。それよりその格好は?」


「詳しいことは今夜話すと言ったろ?」


「その格好で走って来るとかやめてください。私、シャルル様に何かしてしまったのかと思って焦りました」


そうか、こんなヒラヒラした服はオレは普段から着ないからな。完全にレンもオレをシャルルだと思ったのか。
それはそれで癪にさわる。
オレはレンの肩を両手で掴み、後ろに立つ木にレンの体を押し付けた。


「何をするんですか、ミシェ……」


最後まで言わせず強引に唇を重ね、口をこじ開ける。
レンは焦ってオレを引き剥がそうとしたが、よろめいていたほどだ。力なんてないも同然だった。
舌を絡めとり、もう立っていられなくなりそうなレンの腰に手を回し、支えつつも逃げられないように固定した。
次第にレンの体から力が抜けていき、呼吸は乱れ、オレにすべてを預けるように大人しくなったのを見届けたところでオレは満足し、唇を離した。


「あいつと間違えた罰だ」


レンの耳元に囁いた。

 


***

翌朝、オレは空港へ車を走らせた。12時にパリを出発すれば、明日の9時には日本に着く。その足でマリナを連れてパリに戻れば17時からのパーティーには間に合うだろう。これで招待客に迷惑をかけることもない。
とにかく離陸までの時間をかせげばいいだけだ。あとはミシェルがうまくやるはずだ。それこそ軍用機で追いかけて来ない限りオレに追いつくのは無理だ。


婚約発表さえなけばパーティーを終えてからゆっくり日本に向かうという手もあったが、このタイミングを狙ってきたのは何もミシェルだけじゃない。
和矢にしてもこんな状況でもオレが日本に来るのか、その覚悟があるのかを証明しろということだろう。
それだけ和矢は今でもマリナのことを思っているということだ。
どちらにしろオレが日本へ行くことによって、この先の事情も大きく変わってくる。
今のオレはフルールと婚約しようという立場の人間だ。まずここを解消しなければならない。
そして何よりマリナの気持ちを確かめる必要がある。
オレへの思いは本心からなのか、それともまた、一時の迷いからではないのか。
あの日、マリナの背中を押したのはオレだ。彼女にとってそれが一番良いと思ったからだ。決して彼女への気持ちが変わったわけではない。

 

 

 


つづく