きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢 6


オレは部屋の中で一人、ジルの言葉を思い出していた。

【そういう気持ちがいつしか彼女への愛おしさへと変化していくといいですね】

今のオレにはこの先、彼女にそんな感情を抱くとは到底思えない。ただ母となった彼女になら……これはあくまでも想像だ。
先のことはわからない。
彼女を前にしても全くそんな気にはならない今の段階で彼女が母となるのを想像するのは現実的ではない。ただしそれも科学の力を借りれば話は違ってくるが。
とめどもなくオレは答えのない考えの中に沈み込んでいく。とうに諦めはついたと思っていたが、どうやら結婚を前にためらいが出てきたようだな。
明後日にはフルールはオレの婚約者として公に発表される。そうなればもう後戻りはできない。何よりここで止めるわけにはいかない。
南アフリカ共和国に頼っているモザンビークの経済を独立させること、そのためにオレは過去を断ち、前に進むと決めたんだ。
モザンビークへの支援活動によりアルディの資産はその半分近くを失うことになる。オレの個人の資産も同様だ。フルールは当然、このことについて何も知らない。
空を赤く染める夕陽の如く、沈みゆくアルディと運命を共にしなければならない彼女にならあるいは……。

その時、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
壁に掛けられた時計に目をやる。
長針と短針が上を向いて重なり合おうとしていた。
何だ、こんな時間に。
その瞬間、いやな予感がした。オレは持っていたワイングラスをテーブルに置き、立ち上がった。
まさかフルールか?
ポールに帰らせるように言ったのに聞かなかったのか?いや、まさかこんな時間までいるはずはないか。
でも万が一彼女だったとしたら面倒だな。
夜遅くに婚約者とはいえ、男の部屋に来るとなれば、目的は限られてくる。
やはり裏で長老たちが動いているのか?
それならばこのまま放っておくか。
どうしたものかと考えていると、再びノック音が聞こえてきた。
仕方なく玄関モニターに近づいてみると、そこにはポールが姿勢正して立っていた。
小さく息をはいた。知らず知らずのうちにオレは息を詰めていたようだ。ポールだとわかった瞬間、呼吸がしやすくなったように感じた。それだけ婚約者とは、オレが思っている以上に煩わしい存在なのかもしれない。
これもすべてオレを受け入れてくれたあの国の人達の生活を豊かにするためだ。
あの土地には地下鉱床がある。そして掘り出し作業には労働力、運搬のためのインフラの整備が必要だ。一つのプロジェクトがスタートすることによって多様な労働需要が国中を巻き込んでが発生する。それは多くの雇用を生み、賃金となって人々へ還元される。
その可能性は無限だ。チタン、コバルト、ニッケルなどのレアメタルの中でも特にレアアースと呼ばれる物があの土地には確実に眠っている。
マルト氏との交渉も順調だ。あとは資金を集めるだけだ。

「何かあったのか?」

ドアを開けるとポールは白い封書を手にしていた。

「こちらをシャルル様へお届けするようにと」

 


つづく