「あんなにも愛した人を忘れられるわけないわ。たぶん、一生ね。」
忘れられないか…。
そう話す彼女がオレには眩しく見えた。
たしかにオレにもそんな風に思える人間がいた。もうずいぶん昔のことだが何もかも失ってもいいと、命をかけてでも守りたいと思えるようなそんな存在が。
だが彼女の幸せはオレと共に生きる事ではないと分かった時、彼女を手放す事を決めた。彼女が幸せならそれでいい。
「シャルル、あなたにもいるの?そんな風に思える人。」
何も知らないアデリーヌはオレの心の深い部分へと切り込んできた。
「いや、残念ながらオレには親族会議で決定される相手との結婚がただ待っているだけだよ。」
アデリーヌが悲しげな表情を見せた。
「それでいいの?」
「オレはアルディ家の当主として生まれ、そして生きていくだけだからね。」
「今の言葉を聞いたらきっとあなたのお母様は悲しむわ。あなたに幸せになってもらいたいと思っているわよ。私がマリウスに幸せになってほしいと思うのと一緒よ。」
「オレはアルディ家の当主になった。自分の幸せだけを追うわけにはいかない。
それにそんな相手はこれから先も現れたりしないよ。」
そう…彼女を手放した時にオレは人を愛する事を放棄したんだ。
オレは時計に目をやる。
「そろそろ時間だ。」
オレが立ち上がったと同時にドアをノックしてマリーが部屋へと入ってきた。
「失礼します。アルディ家の方がお迎えにいらっしゃいました。中でお待ちいただきますか?」
「そのままで結構だ。
ではアデリーヌ、オレは失礼するよ。
何か変わった事があればすぐに連絡してくれ。」
「分かったわ。シャルル色々とありがとう。それとあなたに渡したい物があるの。」
そう言って彼女はベットサイドの引き出しに手を伸ばした。
「これよ。」
そう言って差し出されたのはメモ帳か何かで作られた少し不恰好な折り鶴だった。
「折り鶴?」
「そう。前にあなたが逃走した後、彼女の部屋に置いてあったの。
珍しくてずっととっておいたんだけど、ある時マリウスが開いちゃったのよ。どうやって作るのか知りたいって言ってね。そしたら中に…」
オレはそれを受け取り震える手でそっと開いた。
つづく