きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢 5

わざわざオレの誕生日に合わせて婚約発表をすることで、より一層注目を集め、これまで当主不在となっていたアルディ家の安泰を広く世間に知らしめることが長老たちの一番の目的だ。 
だがここにも一人、婚約をいいことに好き勝手している娘がいた。


「シェフのみなさん、今日はよろしくお願いします!」


あの日以来、彼女はこうしてたまに来ては厨房に顔を出していると聞いてはいたがどういうつもりだ?


「お家にシェフがいるなんて素敵ですね!しかも色々教えてくれる上に味見までさせてもらえるなんて私、本当にここに来るのが楽しみで仕方ないです」


くるりとした目を輝かせて話す彼女は、心底食べることが好きらしい。ウォンヌ家にもシェフぐらい居るはずだが。
いや違う、たしか古参メイドが食事を担当していると言っていたか。どちらかというと家庭料理といったニュアンスが強いのかもしれないな。


「いえ、私どももフルール様に喜んで頂けて嬉しい限りでございます」


これだけ鼓舞されれば料理人としては本望だろう。料理人達のほとんどが職人気質だ。すでに彼女はシェフ達の心を掴んでしまったようだ。


「今日はお泊まりしていってもいいですか?シェフの方達と作った夕食をぜひシャルル様とご一緒したいし、デザートにはチーズタル……」


「すまないが私は済ませてきたから、一人で食べて行くといい。ポール、フルール嬢に食事の用意を。終わったら彼女を屋敷まで送って行ってくれ」


「承知いたしました。ではフルール様、こちらへ」


彼女は渋々、食堂へと歩き出す。
ふと彼女が振り返った。


「私、もっとシャルル様とお話がしたかったです。また来てもいいですか?」


オレに媚びるように言われてでもいるのか。それとも自らの保身のためか。
たしかに一生をここで過ごすとなればより良い環境であろうとするのは自然か。


「好きにすればいい」


「はい、シャルル様!」


そういうと彼女はポールの後に続いて食堂へと消えて行った。
その様子を隣で見ていたジルが呟いた。


「当たらずといえども遠からず……といったところですね」


無邪気に振る舞う彼女の態度はどうにも落ち着かない。まるで誰かにそうするようにと言われているかのようだ。
長老たちの目的は何より次の世代へ、アルディの血を継承することだ。たとえ彼女の家柄に多少の不満があったとしても今は妥協に値すると判断したのだろう。


「政略結婚の犠牲者でもある彼女にはせめて好きに過ごさせてやろうと思っているだけだ。こちらも無邪気である方が救われるというものだ」


「そういう気持ちがいつしか彼女への愛おしさへと変化していくといいですね。先は長いのですもの」


来月で彼女は17だ。
そして来年には婚約期間を1年置き、彼女の誕生日に籍を入れることになっている。
君と夢見た未来はもう二度とこの手には戻らない。

 

 


つづく