きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

la douce pluie 50

私はシャルルの居室での暮らしもすっかり慣れてきた。一緒に過ごすようになって何日か経つけどシャルルはほとんど外出しなかった。時折、執務室に籠る程度で当主の仕事は平気なのかしら?

「ねぇシャルル、仕事に行かなくてもいいの?私は一人でももう平気よ。過呼吸だってあれっきりないもん。」


リビングのソファーに座っていつものように新聞を読んでいるシャルルに私は声を掛けた。

「当面の仕事はモルディブへ行く前に片付けてある。それにわざわざオレが動かなくてもしばらくは大丈夫だ。」

私が心配でってわけじゃないみたいで少しホッとした。
こうして二人で居られる時間があるのは私にとっては嬉しいことだった。
だけどシャルルは大小合わせると数百という会社を持つアルディグループのトップ。それに加えて医師としての仕事もこなしている。毎日、山のような仕事を抱えているのは聞かなくても想像できる。
数週間帰ってこない時もあって一人きりで慣れないフランスでの生活に不安になることもあったけど私はあえて口にしなかった。これがアルディ家の当主であるシャルルと一緒に生きていくって事だと分かっていたし覚悟も出来ていたから。
でもそんな私の事を気にかけたシャルルが犬を飼う事を許してくれたの。それが今回の始まりだった。


「あっ!もうこんな時間だわ。ティナのお散歩に行ってくるわね。」


私は寝室の隣に作ってもらったティナ専用の部屋に向かった。あの日からティナもシャルルの居室に引っ越しさせてもらっていた。お散歩の時間が分かってティナは私の足元をグルグルと回って思いっきり尻尾を振っている。


「お待たせティナ。お散歩にいこっ!」


アルディ家の敷地の中だけでも十分に散歩が楽しめる。夏といってもこの時期のパリの気温は28度前後で日本のムシムシした暑さとは全然違うの。
裏庭まで足を延ばして30分ほど歩いていたら空が急に暗くなり始めてきた。

「ティナ、雨が降ってきそうだから帰ろうね。」

私は急いで本邸に向かって歩き始めた。
行きとは違って帰り道はティナを呑気に遊ばせてる余裕はない。
ポツン…ポツン…。

「やだぁ、もう降り始めて来ちゃったよ。ティナ急ごう。」

木の下を辿るようにして雨を避けながら私は急いだ。次第に強くなり始める雨に気休めでハンカチをポンと頭に乗せて小走りな私を待ち切れない様子で先に立つティナはとっても嬉しそう。

「もう、遊んでいるんじゃないのよ~」

はしゃぐティナとは逆に日頃の運動不足のおかげで私はクタクタだった。
雨が落ち着くまで私は足を止めて木陰に身を寄せることにした。生い茂った木々が雨を受け止めてくれていた。

「参っちゃったなぁ…。」


空を見上げて止みそうにない雨にため息を溢した。隣でちょこんと座っていたティナが立ち上がり尻尾をブンブン振り始めた。何だろうと思って目を凝らしてみるとこっちに向かってくる人影が薄っすらと見えた。







つづく