「シャワー先にいいか?」
「もちろんです、ミシェル様。私のことは気になさらないで下さい」
監視が目的だとしてもレンにとってオレとの生活は相当なストレスだったはずだ。オレ達のプライベートはこのバスルームとトイレ、それに夢の中くらいだ。
ポケットから隠し持っていた封書を取り出し、宛名を指でなぞる。
「なかなか考えたな」
さて、どうするか。
そろそろ屋敷の中のカメラの位置を把握しなければ身動きが取れない。
おちおち部屋でこれを見ることもできない。下手を打てばますますここでの暮らしが厳しくなるだけだろう。
何度か探りを入れているが屋敷内のカメラの事は決してレンは話そうとしない。
アルディを裏切ることへの抵抗か。
それとも純粋にオレの心配か?
やはりオレを慕うふりをして油断させるって作戦か?
正直レンに対しての気持ちをオレは持て余していた。
レンは男だ。
その事実がオレを立ち止まらせていた。
初めはこちら側に付ける目的でレンに近づいた。だが人は一定の時間を共に過ごすと心を通わすことが多々ある。オレ達もそれは例外ではなかった。
もちろん印象操作は相当させてもらった。
レンは徐々にオレに心を開き、次第にオレの心配を口にするようになっていた。
それもバスルームにオレがいる時に限ってだ。
あの日もそうだった。
***
「親族会議の決定はこれまでも二転三転しています。騒ぎを起こせば再び孤島へ送られる可能性もゼロではありません」
「オレは何もしやしない。この生活に満足しているからな」
心にもないことをオレはわざと口にした。
「こんな監視された生活にですか?!」
思った通りレンはオレの挑発に乗って感情を抑えられなくなってきたようだ。
「以前とは違う。今はもうお前を監視役だとは思っていない」
「私のことではありません!」
珍しく荒々しいレンの態度を見て確信した。やはり部屋に隠しカメラはある。だがこのバスルームにはない。だからレンはいつもここで話をしたがるんだ。
「カメラがあるんだな?」
オレに悟られたことでレンが狼狽えているのはわかった。
「知りません」
そういってレンはうつむいた。
それが答えだ。
「それなら向こうでゆっくりと聞くとしよう。ここは狭い。妙な気を起こしそうになる」
うつむくレンの顎をつまみ、上向かせる。
次の瞬間、小さなため息と共にレンの諦めの声が聞こえた。
「向こうではだめです。すべて聞かれてしまいます」
「正確な位置を教えろ」
小型化が進み、人の目で見つけるのは至難の業だ。中にはさりげなく置かれた花に隠されているものもあった。
「すまないな」
「知ってどうするつもりですか?私にはすべて話してください。ミシェル様の力になりたいのです」
「わかった。だがその時はお前も道連れになるぞ」
「構いません。壁の中の生活も私と二人なら少しは気が紛れるかもしれませんよ」
孤島での話もレンにはすべて話した。信頼は真実の解放が一番の近道だからな。
だが、今も本心なのか、互いに探り合っているのか分からなくなる時がある。
油断させてこちらの動きを把握しようとするのはよくあることだからだ。
もしもオレに詰められた時のために、レンには部屋のカメラの位置までは話せる許容が与えられているという可能性もある。
なぜならそれ以外の屋敷のカメラに関しては決して話そうとはしないからだ。
レンの目に移るものはオレか?
それともシャルルか?
お前はどちら側の人間なんだ。
つづく