きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢【シャルルBD2022】


「ここ数日は特に政界や財界、もちろん医学会の方々からもシャルルの誕生日を祝う手紙が多く届きます。くれぐれも仕分けミスなどしないように頼みますよ」

「ミス?このオレに限ってあり得ないね。ジル、君とは違うからな」

利己主義な大人達があいつに媚びへつらう姿にはいつものことだが呆れ果てる。

「故意的なミスは許さないという意味ですわ、ミシェル」

当主争いに敗北した後、オレは親族会議の決定によって孤島へ送られ、残りの人生を無機質な壁の中で過ごすことを強いられた。
起床から就寝までのすべてを管理される生活がオレを待っていた。
朝食はパンと味の薄いスープ、昼はキューバを意識しているのかパパイヤやグァバなどのフルーツ。そして夕飯は豆類と魚か肉のどちらか。まるで刑務所のようだ。
こんな生活が毎日繰り返される。二週間も経つと食事はオレにとってただ栄養を摂取するだけの作業となり、苦痛を伴うようになった。
もともと食への興味はそこまでないが死ぬまでこれか……と思うと気がふれそうだ。
それがアルディの目的なのだろう。
週に二度、外気に触れる時間があった。
監視係はこのことを祈りの時間と呼んでいた。
オレはその時間を島の位置を把握することに努めた。
水平線上には見るかぎり何もない。
オレの目線の高さを170、地球の半径を6370kmとして水平線までの距離を計算すると約52.8km。たとえこの島を脱出できたとしても、どの方角にも50キロ以上行かないと陸地はないということだ。運よくどこかの船が通りかかれば話は別だが、泳いで陸地を目指すのは現実的ではない。
この島には浅瀬はないようだ。船が近づく気配も感じない。ダイブするだけで命がけになりそうだな。
そんなオレに転機が訪れたのは孤島へ送られてから数ヶ月後のことだった。
島へ降り立ったジルから聞かされたのは、シャルルを救えるなら孤島での幽閉を撤回してもいい。これがアルディ家から出された条件だった。
最後のチャンスだ、そう思った。
やつらが親族会議の決定を撤回するとまで言ってきたということは余程のことなのか。

「つまりオレはプラハに向かい、ザイラー博士の技術を越える奇跡的な手術によってシャルルを回復させればいいってことか?」

「その通りです」

アルディの光を救えるのは影であるオレだけということか。

「たとえ手術に失敗したとしてもオレがシャルルのスペアとなればいいわけか」

「いいえ、失敗すればあなたは再びここへ帰れるというだけのこと」

ジルの瞳孔がわずかに揺れた。
ハッタリなのはすぐにわかった。でもそれを突きつけるほどの手札がこちらにはない。
向こうも必死なのは確かだが、シャルルに何かあればがこの話自体がなくなる。
オレの選択肢はそうなる前にさっさとここを脱出して手術を成功させるしかないか。

「わかった。カルテとCT画像、それからザイラー博士の手術記録を見せてくれ」

 


つづく