何を思ったのかマリナは扉を両手の拳でドンドンと叩き始めた。
「誰かー!開けてー!ドンドン……誰かー!」
なんて短絡的な考えなんだ。
オレは焦ってマリナを止めた。
「やめとけ、手を痛めるだけだ。こんな密林の奥に人がいるとは思えない。誰かいるとすれば、それはオレたちを閉じ込めた人間だけだ」
「じゃあここからは出られないってこと?だったら一体どこから出るのよ?!」
ギャンギャン騒ぐマリナにオレは背を向け、ペンライトを手に再び扉に向き直った。
「考えてもみろよ。この隠し扉はもともと有事の際の避難口だと言ったろ?中から開けられなかったら意味がないだろ」
「なーんだ!だったら初めからそう言ってよ。もうびっくりしたじゃない!それであんたは何をしてるの?」
外にあった蛇の模様か、あるいは同様の物がこちら側にもあるはずだと説明するとマリナも手にしていたペンライトで辺りを探し始めた。
「もしもし蛇よ、蛇さんよ、世界のうちでお前ほど……」
それを言うなら亀だろ……と心の中で呟きながら音程のずれたマリナの歌を聴きながら探し歩いていると扉の下部に微かだが何かが刻まれている石を見つけた。
オレは片膝をつき、傷のようにも見えるそれに触れてみた。
これは自然に削られたものではない。
「ライオン?」
マリナがオレの横にきて覗き込んだ。
そうか!
「これはジャガーだ。太陽神キニチ・アハウは日が沈むとジャガーの姿となり、地下世界を闊歩すると言われているんだ。これで出られるぞ」
マリナの顔がパッと明るくなった。
オレはさっきの要領でジャガーが刻まれた石を押してみた。ところがいくら押してもビクともしない。
「どうしたの?」
さっきとは違う仕掛けなのか?
手前に引こうにも指をかける隙間がなく、やはり押す以外には物理的に無理だ。
もしかしてこの石ではないのか?
ペンライトで再び扉周辺を見て回った。
しかしそれらしい物は何も見つけられない。となればやはりこの石が扉を開ける鍵に間違いなさそうだ。
「はっきりとしたことはわからないが、こちら側の仕掛けは長い間使われていなかったせいで動かなくなっているようだ」
「えっ?じゃあ、どうするのよ?!」
マリナは噛みつかんばかりの勢いだ。
期待を裏切られたショックは大きかったのだろう。
「他の出口を探すしかないな」
「うそでしょ……」
「日没まで時間がない。とにかく急ごう」
さすがにここで夜を明かす気にはなれない。もしかするとあの白骨体もオレたちと同じように誰かに閉じ込められて出られなくなったのか?
となればこの先には外へ通じる道はないのか?とにかく、先へ進もう。
オレたちは来た道を戻ることにした。しばらく行くと再び白骨体と再会することになった。
オレは足を止め、物言わぬ彼をしばし見つめた。ぽっかりと空いた二つの眼窩はかつて自らの身に起きたであろう悲劇をオレに語りかけているようにも見えた。
「どうしたのシャルル?」
「いや、何でもない」
彼はおそらく何らかの事件に巻き込まれた可能性が高い。
だが今は話すべきではない。
マリナを不安にさせるだけだ。
オレたちは再び出口を求めて歩き出した。
奥へと進むごとに空気が重苦しくなってきた。扉が閉められたことで外気が通らなくなったせいか。
やはりこの先は……。
つづく