きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

碧色のバカンス14

「どうしたのよ?!」

無色透明で鼻を刺すようなこの刺激臭。加えてここが古代遺跡内となれば天然の放射性物質ラドナとみて間違いない。

「有毒ガスだ」

「やだ、早く逃げなきゃ」

マリナの顔がこわばり、緊張が走る。有毒ガスといえば甲府硫化水素を吸わされた時のことを思い出したのだろう。
オレはそのままマリナの手を掴むと急いで来た道を戻った。
ラドナは硫化水素とは違い、長期的に吸い続けなければ問題はない。だが危険なガスには変わりない。

「ここまで来れば大丈夫だろう」

「こんな場所で有毒ガスだなんて逃げ場がないのにどうしよう」

十分な距離をとった上でオレは足を止め、不安そうにするマリナに説明した。

「扉の向こうには天然の放射性物質が充満していた。高濃度で吸引したり長期的に吸引した場合も内部被曝を引き起こす可能性がある危険なものだが、扉が開いたことでその濃度が薄まり、遺跡内に流出する頃には人体に影響のないレベルにまでなるだろうから安心して」

マリナを怖がらせないためにオレは嘘をついた。
たとえあの扉が開いたとしてもラドナが発生し続けているかもしれない部屋の中に入るのは危険だ。
かといってこのまま出口を見つけられなければいずれは遺跡内に拡散するラドナを吸い続けることになりオレたちは内部被爆を起こす。

「でもこれからどうするの?出口は閉められちゃったし、あの扉は開かないのよ」

マリナは後ろを振り返り不安げに言った。

「もう一つ道があっただろ?あそこへ行ってみよう」

あの先はおそらく行き止まりか、貯蔵庫のような物しかないはずだ。ただ……。
不安は残るが今は行くしかない。白骨体の前を通過するのも三回目となったが相変わらずマリナはオレの手を握り、恐々と壁際に沿って通り抜ける。
一番初めの扉まで戻ったオレたちはもう一つの道、左の道へと進んだ。
通路を歩いて行くと突然開かれた空間が現れ、そこで行き止まりになっていたが、

「シャルルっっ!明かりよ!」

外壁の損壊箇所とさっきの雪崩のように崩れ落ちていた壁の位置から考えてこの辺りから外へ出られるかもしれないと一縷の望みをかけて来てみたがやはり思った通りだ。
外から何かで掘削したのだろう。外壁はひどく破壊され、崩れかけてた壁の一部から一筋の光が射し込んでいる。マリナだけならどうにか出られそうだ。
オレたちを閉じ込めた奴が外にいる可能性はあるがこのままここにいるわけにもいかない。積み重なる岩石をジェンガのブロックを引き抜くように慎重に取り除いていく。時おり砂埃と共に石が転がり落ちてくる。
直径30センチほどまで広げることはできたが、これ以上は無理そうだ。下手したら崩壊してせっかくの出口まで塞がりかねない。

「マリナ、先に行け」

マリナの表情が不安に包まれる。マリナの目から見ても出口は小さすぎてオレには通れないことは火を見るよりも明らかだった。

「でもあんたはどうするの?!」

「オレはここで助けが来るのを待つ。もし今、オレも通れるほどの大きさまで広げたりすれば壁は確実に崩壊し、オレたちは完全に閉じ込められる。それなら君がここから脱出し、助けを呼んで来た方がいい。二人とも助かるにはそれしかない」

マリナは真っ直ぐにオレを見つめ、それから大きく頷いた。

「わかった。すぐに誰かを呼んでくるから待ってて!」

オレは自分の携帯をマリナに差し出した。

「まずここを出たら密林の影に身を隠すんだ。さっきの奴がまだ外にいるかもしれないからくれぐれも気をつけるんだ。誰もいないことを確認したらこのボタンを押すんだ。そうすればジルと連絡がとれる。あとはジルが上手いことやってくれるはずだ。いいね?」

こうしている間にも砂利がサラサラと溢れ始めてきていた。

「マリナ、急げ。もう強度がもたないぞ」

「すぐに戻って来るから」

そういうとマリナはワンピースの裾を捲り上げ、キュッと膝上の辺りで括った。それから両手をパンパンと叩き、両手をついて四つん這いの姿勢で穴の向こうへと進んで行った。
直後、ゴロゴロと岩石が転がり落ちてきてあっという間に出口は塞がってしまった。



つづく