遺跡の中はマリナと並んで歩けるだけの広さがあった。
やはりここは有事の際の避難通路か何かなんだろう。もしかするとこの道が未だ発見されていない王の間へと続いているのかもしれない。
数メートルほど進んだところで分かれ道にぶつかった。ペンライトでかざしてみたが先がどうなっているかはさすがに見えない。
「シャルル、どっちに行こうか?」
マリナは何度か目をこするとペンライトで照らされた二つの道を眉間にシワを寄せて見始めた。
オレは思わず吹き出しそうになった。オレを笑わせようとしているのか?
そんなことしても見えるわけないだろ?
「行くぞ、こっちだ」
オレは迷わず右の道を選んだ。
人は道に迷った時、自然と左へ進む傾向にある。なぜなら人は無意識に左回りを好む習性があるからだ。
そして色々な場所でこの左回りの習性は利用されている。スーパーマーケットがそのいい例だ。
右利きの人間が多いため右手で商品を取り、左へ左へと進むよう設計されている。
他にも陸上競技のトラックやスケートなどのスポーツにおいても同じ理屈だ。
逆にお化け屋敷のような恐怖を煽る目的の場合わざと右回りに進むように設計し、気持ち悪さや違和感を恐怖へと変えるのだ。
だからおそらく左には何もない。そう易々と王へと辿り着かれては困るからな。つまり右が王へと繋がる道というわけだ。長い間使われていなかったせいか先へ進むごとに足元は悪くなり、ゴロゴロと石が転がり、歩きづらくなるばかりだ。オレは立ち止まり、ぐるりと辺りを見渡した。
壁が剥がれ落ちている箇所がいくつかある。これ以上進むのは危険か?
明かりを天井に向ける。
こちらは問題なさそうだ。外観の石段とは違い、内部は石灰岩でできているようだ。
「ぎゃっっ!」
石に躓いたのかマリナはバランスを崩し、声を上げた。
「大丈夫か?」
「あー、びっくりした!何で道の真ん中に石なんて置いておくのよ!まったく危ないじゃない!」
マリナは躓いた石の大きさでも確認したかったのか振り返りながら誰に言うでもなく文句を口にした。
「ほら道が荒れてきたから気をつけろよ」
オレはマリナの足元を照らしてやった。
「ぎぇーーっ!!」
するとマリナは遺跡が震えるような悲鳴をあげ、オレに飛びついてきた。暗がりの中、照らし出されたのは一体の白骨体だった。マリナはあれに躓いたのか。
絡みつくマリナの腕を解き、白骨体の前にしゃがみこんだ。状態から見てそう古いものではない。詳しく調べてみないと断言はできないが死後半年から一年ほどといったところか。古代人の可能性はないな。
それならなぜこんな場所に?
遺跡内はそれほど複雑な作りではない。道に迷い、出られなくなったとは考えにくい。
「マリナ行くぞ」
「えー、まだ行くの?!」
「いやならそこで待っててもいいが……」
オレはちらりと白骨体に視線を向けるとマリナはすぐさまオレの腕に飛びついてきた。
「いやに決まってるでしょ!」
「君の中にもあれと同じものがあるんだぜ。何も怖がることはない」
「そういう問題じゃないのよ!」
マリナはふてくされたようにプイッとそっぽを向いた。次の瞬間、
「あそこに誰かいたわっ!」
マリナはオレたちが通ってきた道を指差して叫んだ。
「本当かっ?!」
くそっ!
バッテリー切れの時のためにと持ってきていた小型のペンライトをマリナに渡し、オレはそいつの後を追った。
「そこで待ってろ!」
「ちょっと待ってよ、シャルル!」
オレたちに気づかれないようそっと後をつけてきていたのか?だがもう隠すつもりもないらしい。足音が激しく聞こえてくる。なりふり構わずといった様子だ。
このまま遺跡の外に逃げられたら見つけようがないな。とその時、遠くで聞き覚えのある石が軋むような音が聞こえてきた。
くそっ……!やられたか!
数秒後、その音はすっかり止んだ。
オレは隠し扉へと急いで向かった。
やはり扉は閉められていた。外から仕掛けを動かしたんだろう。
ペンライトの光で扉付近を隈なく見て歩いているとオレの名を連呼する声が近づいてきた。半分泣きそうな声にさすがに置いてきたのはまずかったかと反省した。
「怖かった?」
「当たり前でしょ!もうあたし、帰るわ!」
かなりのご立腹だ。
「オレもぜひそうしてやりたいんだが、まずいことに外から扉が閉められたようだ。
とにかく早くここから脱出しなけりゃ、オレたちも彼のように白骨化するだけだ」
「ひぇーー!」
つづく