きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

碧色のバカンス13

二つのペンライトが放つ光は側壁を照らし、不協和な影を作り出している。闇はその姿を消し、光となり、そしてまた闇へと姿を戻す。まるでオレたちの後を追って来るかのように繰り返される光と闇の中、マリナがオレのシャツの裾を掴んだ。
人は闇に恐怖を感じるものだ。オレはマリナの手を握った。
遺跡内は決して寒いわけではないがマリナの指先は冷たかった。
視覚の効かない暗がりの中で聴覚や触覚といったものをマリナなりに研ぎ澄ましているのだろう。脳内血流が増したせいで指先の毛細血管が収縮しているんだ。

「オレがついている。何も心配いらない」

マリナの不安を取り除くようにオレはマリナの手をさらに強く握った。

「うん」

手を繋ぎ歩き出すとマリナの足取りも幾分か軽くなった。しばらく歩き、マリナの手に温もりが戻り始めた頃、オレたちの行く手を阻むように大きな壁が立ちはだかっていた。さらに側壁が崩れ、大小の岩が壁に向かって雪崩のように横から押し寄せ、壁の半分以上を覆い隠していた。

「何これ……」

マリナはペンライトを持つ手をだらんと下ろし、途方に暮れたように立ち尽くした。
オレは崩壊している箇所を確認し、天井を見上げた。こちらは特に崩れやひびは見られない。ただの経年劣化ではなさそうだ。ならば側壁だけがなぜこんな風に雪崩れ込んで来ているのだろうか。

「どうしようシャルル、行き止まりになっちゃったよ」

遺跡に入ってすぐに道が二つに分かれていた。オレは迷わずに右の道を選んだ。王へと繋がる道だと確信があったからだ。
だが現実には大きな壁が立ち塞がっている。
間違えたのか?
いや、そんなはずはない。オレが間違えるはずはない。
ここまでの道程で分かれ道はあの場所だけだった。この先にはきっと何かあるはずだ。オレは壁の前に膝をつき、目の前に転がる石を次々と後ろへ放り投げた。

「何をする気なの?」

「この壁にも何か刻まれているかもしれない」

「じゃ、ここが開くかもしれないってこと?!」

そういうとマリナはオレの隣にしゃがみこみ手伝い始めた。
だが道具もなしの作業は思った以上に効率が悪く時間だけが過ぎていった。
下部の石を取り除くと上部の石が転がり落ちてきて、それをまた取り除くという終わりの見えない作業をオレたちは繰り返した。

「シャルル、ここ見てっ!」

二人ではやはり限界かと思い始めた時、マリナが石と石の隙間を指差して言った。
見れば壁の一部に削られたような痕が見えた。これだ、間違いない。
微かにだがそこには確かに三つの頭を持つ鷲が刻まれていた。

「あれは夜闇に羽ばたく三頭の鷲、月の神アカンスだ」

急いで周りの石を退かし、オレはその石に手をかけるとこれまでと同様に押してみた。すると砂埃がぶわっと立ち上がり、こちら側にゆっくりと動いた。
一見、壁のように見せていたが、やはり隠し扉だったのか。
しかし壁は僅かに動いただけでピタリと止まってしまった。
くそっ……!雪崩れ込んだ石が邪魔をしてそれ以上開かないんだ。
かと言って全部の石を取り除くなんて不可能だ。どうしたものかと隙間から中の様子を窺おうと壁に近づいたオレは中の異変に気づき、とっさにその場から離れた。

「マリナ、来いっっ!」




つづく