「ええ、ここ数年間で島内で行われた建設事業の内、プレムス建設という会社が行った道路工事現場からかなりの石灰岩の使用が確認されました。それにこれを見てください」
ジルはテーブルを挟んであたし達の向かい側に座ると資料の一番後ろのページを指差した。そこには島の全体図が描かれていた。赤色の斜線がいくつか書き加えられている。
「この赤色の部分はプレムス建設がこの半年で手がけた道路建設の現場です。すべて島の北部に集中しています」
それって単に北部での仕事を一遍にやっただけじゃないの?とあたしが言うとシャルルは首を横に振った。
「いや、むしろ北部でやることに意味があったんだ」
「どういうこと?」
「このプレムス建設はマテカ遺跡を構成している石灰岩を切り崩して道路工事に使ったということだよ。島の北部を中心に工事を行ったのは切り崩した石灰岩を運搬する輸送コストを抑えるためだからだ」
「それじゃ、遺跡を壊したのって……」
シャルルの青色の瞳が鋭く光る。
「あぁ、プレムス建設に間違いないだろう。ジル、遺跡内の構成鉱物とは一致したのか?」
「いえ、結果はまだです」
シャルルの問いにジルが伏し目がちに答えた。シャルルの求める答えを準備できていないことをジルは悔やんでいるようにも見える。
「アルカシリカ判定をさせているのか?ドロマスト式骨材判定だけでいいからと言って急がせてくれ」
「わかりました」
ジルはそういうと立ち上がり、部屋を後にした。
「構成鉱物って何?」
「構成鉱物というのは石灰岩を構成している成分のことだよ。石灰岩はCa2+やCo2-の他に種々の自然成分でできている。遺跡の構成鉱物と道路建設に使用された成分が一致すればプレムス建設が遺跡内の石灰岩を使用したという証拠になる」
「プレムス建設はなんでわざわざ遺跡を壊してまで石灰岩を使ったのかしら?」
「道路建設に使用されるアスファルトは減圧蒸留装置で作られる減圧残油に骨材や砂を混合して作るんだ。この骨材の代わりに石灰岩を使用しコスト削減を図ったんだろうな。そして遺跡の管理をしていたジャン・バロンはそれを偶然見つけて殺害された」
「それじゃ、あの白骨体って」
「十中八九、ジャン・バロンだろう。頭蓋骨に陥没が見られたからおそらく撲殺されたのだろう」
あんな状況でシャルルがそこまで見ていたことにあたしは驚いた。
シャルルの話によるとこのプレムス建設の道路建設はアルディ家が出資したこのホテルのすぐ近くでも行われていたらしい。
ということはマクソンはこのホテルを作るためにシャルルが遺跡を壊したんじゃないかって思ったってこと?
「それじゃマクソンはシャルルが殺したって思っているってこと?」
シャルルは静かに頷いた。
「おそらく遺跡を破壊し、ジャンを殺害したのがオレじゃないかと疑っている。だが要人であるオレには直接手が出せない」
「だからあたしに近づいたってこと?」
「おそらくそうだ」
サンペドロ警察から遺跡内で発見された白骨体の身元が判明したと連絡が入ったのはその日の夜のことだった。
つづく