「むこうに車を待たせてある。とにかくホテルに戻ってジル達と合流する」
そういって歩き出すシャルルにあたしは遅れまいと小走りになりながらあとを追った。
「ちょっとシャルル、マクソンを信用するなってどういうこと?」
「首相にはアルディの名は伏せて海上保安省に依頼をするように頼んだんだ。実際に捜索にあたる現場にまでアルディの名は出したくなかったからね」
そういえばジルも言ってたわ。
アルディの名は不用意に出さないようにって。でもそんなに気にすることなのかしら?フランスだったらまだしもここは中米よ。あたしは首を傾げつつも黙ってシャルルの話を聞くことにした。
だって話の途中で下手なこと聞いてシャルルの機嫌が悪くなったりしたらそれ以上教えてもらえなくなっちゃうもの。
「だから捜索に参加したマクソンのダイバー仲間がオレの名を知っているはずはないんだ」
「それじゃ……」
あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
「あぁ。マクソンは嘘をついている」
シャルルは車に乗り込むとそれっきり黙り込んでしまった。
舗装のされていない砂利道に車体を揺らせながら海岸沿いの一本道を車は走っていく。通りを歩く人やゴルフカートを横目にあたし達はホテルへと向かった。
***
「マリナさん、ご無事で何よりです」
ホテルに着くとジルとアドルフがあたし達を出迎えてくれた。
「心配かけてごめんね。まさかあたしも部屋に戻れなくなった上にホテルから追い出されるなんて思ってもいなくて、もうびっくりよ。一時はどうなるかと思ったわ」
「追い出された?どういうことだ」
それまで黙ったままのシャルルがあたしの言葉に反応した。
それであたしは今朝のフロントでのできごとを話した。
「言葉は通じないし、警備員は追いかけてくるしで、仕方なくホテルの前であんたが来るのを待っていたんだけど気分が悪くなっちゃって。そしたらマクソンが偶然通りかかってあたしを助けてくれたのよ」
するとシャルルは眉をピクッとさせ、フロントに立つ男を見た。
「あいつか?」
シャルルの視線の先にはあたしを追い払ったあの男が立っていた。
あたしが頷くとシャルルは徐にフロントに近づいて行った。
すると男は笑顔でシャルルを迎え、対応し始めた。シャルルが男に何か声をかけ、男はそれに答えているようだ。
不意にシャルルがあたしの方を振り返り、男に何かを言った。すると男もつられるようにあたしの方を振り返った。
男は驚いた顔をし、シャルルが何か言った瞬間、男の顔からすっと笑顔が消えた。
あたしはその様子を見てシャルルの報復が始まったんだと思ってぞくぞくした。
あたしを追い出したりなんてするからよ。シャルルにこてんぱんにやられればいいんだわ。
あたしは男が低頭平身で謝るのを今か今かと待った。だけど男は一向に謝るような様子はなく、そのうちに話が終わったのかシャルルが戻ってきた。
え?
もうおしまい?
だってあたしはまだあの男が謝るところを見ていないわよ。
まさかあの男、あたしのこと知らないとか言ったんじゃないでしょうね?!
「ちょっとシャルル、あんたちゃんと文句言ってくれたの?」
「何がだ?」
「何がってあたしを追い出したことを言いに行ったんじゃないの?」
「あれは君の語学力の問題だろ」
まぁ、そうなんだけど……。
「それよりもあいつの裏の顔が見えてきたぜ」
「あいつ?」
青灰色の瞳に鋭い光が走る。
「今朝、あいつはここへ来ていたんだ」
つづく