きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

春風よ君に届け10

マリナのペンの天冠にアルディ家の紋章が入っていたのは知っていたが、まさかイニシャル入りとはまったくあいつも趣味が悪い。
おそらくクリップ部分には得意のGPSを搭載しているはずだ。
思わず自分の腕時計に目をやり、ソファに投げた。
そんなこととも知らずにマリナは嬉しそうに身につけているというわけか。
オレがわざわざ探してやるまでもない。ペンが移動しないことに気づいたあいつが図書室へ行くだろう。
パソコンの前に座ったとたんに電話が鳴った。どこかで見ているのかと思うほどのタイミングだな。受話器に手をのばす。

「ミシェルだ」

「オレだ」

TV電話でないことに安堵した。顔を合わせて話す時はまるで鏡に話かけているようでどうにも慣れない。

「何だ?」

「海底資源クラストの堆積物からなる海流の分布についてのデータをこちらまで持って来てくれ」

「PCへ送るのではダメなのか?」

「いや、今すぐ持って来てくれ」

忌々しく思いながらUSBメモリーを握りしめ、執務室を出た。
図書室を過ぎた辺りで男達とこちらへ歩いてくるアネットの姿が見えた。
距離が近くにつれ、アネットが小さく首を振ってオレに何か言いたげにしているのがわかった。
どうも様子がおかしい。
オレは距離を取ろうと道を譲るふりをして廊下の右側へ移動しようと視線を動かした瞬間、二人の男が素早くオレの両側を固めるように動き、もう一人がオレの後ろに回り込み退路を塞いだ。
その動きから見て何かしらの訓練を受けているのは明らかだ。
相手は四人、さすがにアネットもいるこの状況では勝ち目はないか。
アネットの横に立つ男がオレを振り返り、ポケットからきらりと光る物をちらつかせた。

「お静かに。彼女に危害を加えたくはありません」

くそっ!
彼女は人質ってわけか。
まぁいい。どちらにしても屋敷からは出られはしない。
何せオレはあいつの許可なく外出はできないからな。
屋敷を出る前に必ず警備がオレを引き止める。

「ではシャルル様、参りましょう」

シャルル?!
オレをあいつと間違えているのか?ということは……まずいな。

「待って!その人はシャルルさんじゃ……」

「いいから彼らの言う通りにするんだ、マリナ!」

アネットは目を見開き、そして言葉をのんだ。
この辺りは人気がない。
今ここでオレがシャルルでなく、そして彼女がマリナでないと知れたら事件の発覚を恐れ、おそらく彼らはこの場でオレ達の口封じをするはずだ。
本懐を遂げる前に騒ぎを起こすわけにはいかないからだ。
容易に屋敷内へ侵入し、こうしてオレ達を拘束したこれまでの手際の良さを考えればオレ達を始末することぐらい造作もないだろう。
今、正体を明かすよりも正面玄関のGPSセンサーがオレを感知するのを待った方が確実だろう。
それに出入り口には警備員もいる。オレ達の異常に気付くはずだ。
しばらく歩き玄関ホールに出た。
しかし普段とは違い、警備の数が明らかに少ない。
訪問客の対応に追われ、出て行く者は全くのノーマーク状態だ。
まさか交代の時間か?!
オレは時計を見ようとしてハッとした。
そうだ、ソファに投げ出したままだったことを思い出した。
くそっ、こんな時に限って。
だがこのまま屋敷を出るのはまずい。
オレは気付かれない程度に歩く速度を緩め、両脇の男と僅かに距離がとれた瞬間、後方の男に回し蹴りを食らわしてやった。

「うっっ……」

男は倒れるまでには至らなかったが、この騒ぎに周りの人間が一斉にこちらに視線を向けた。
警備達がオレに気づき血相を変えて駆け寄って来た。

「シャルル様っ!!」

左右の男がオレの腕を拘束し自由を奪うと引きずるようにして外へと連れ出す。
そこへ勢いよく一台のワゴン車が滑り込んできた。
目の前で急停車すると同時に、車内から二人の男が飛び出してきた。
一人はアネットの横にいた男と一緒に彼女を車内に連れ込み、もう一人はオレの左右にいた男達と共にオレを車に押し込むと自分達も次々となだれ込む。

「出せ!出せ!」

スライドドアが閉まりきらないまま車はタイヤを軋ませ、走り出した。

「シャルル様、少し眠って頂きます」

そういうと男達はオレを抑えつけ、一人が薬品を染み込ませた布でオレの鼻と口を塞いだ。
鼻の奥にツンと刺激臭が響く。思わず息を止めた。
それも長くは続かず、息苦しさから呼吸を繰り返すうちに意識が薄れていく。
数回吸い込む程度では意識を持っていかれることはないが、血中濃度が一定量を超えればそれまでだ。
そしてオレは意識を手放した。





つづく