きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時の流れ (前編)


「それが、先ほど一旦戻られましたがまた何処かへお出かけになりました」

執事さんは申し訳なさそうにそう言った。

「今日もなの?どこに行ったのかしら?

それで、何時に帰って来るって?」


「行き先は伺っておりませんが少しだけ遅くなるとおっしゃっていました」

執事さんとのこのやりとりももう三日目だった。
ずっと一緒に居られないのは分かっているけどやっぱりどこか寂しい気持ちになる。


「そう、分かったわ。戻ったら教えてちょうだい」

あたしはため息を一つ残して執事さんの部屋を後にした。

太陽が辺りを赤く染めながらゆっくりとその姿を隠し始めていく。
あたしは吸い寄せられるようにテラスに出た。
まるでベールのような雲がすじ状に空を覆っていて赤、青、黄の光が混ざり合いとても幻想的だった。
しばらく眺めているとあたしの視界に小さな黒い影が飛び込んで来た。一つ、二つと小さな影は何度か大きく旋回しながら次第に大きな一団となって森へと消えていった。
その様子をぼんやりと眺めていたらふわりと何かに包まれた。



「アトリだな。ヨーロッパ及びユーラシア大陸に多く生息する小鳥だ」


驚いて振り返るとシャルルがいた。こんな時間にシャルルが帰ってくることなんて滅多にない。


「どうしたの?今日はずいぶん早いのね」


「明日はオレたちの結婚記念日だからね。今夜は君とのんびりしたいと思って早く切り上げてきたんだ。それより中へ入ろう。そんな格好では冷える」


シャルルはあたしの肩を抱くと部屋の中へと促した。
そう言われてあたしは初めて自分の体が冷え切っていた事に気付いた。
シャルルが掛けてくれたショールを手繰り寄せてその温かさに体の緊張を解いた。
シャルルの繊細な指があたしの頬に触れた。その温もりが伝わってくる。


「こんなに冷たくなるまでどうしたんだい?」


シャルルは心配そうな顔であたしを覗き込んだ。

「今日もマティスは帰りが遅くなるんだって。森へ帰っていく鳥たちを見ていたらなんだか寂しくなっちゃった。ついこの間まではママ、ママって言ってたのにもう三日も帰りが遅いのよ。行き先だって執事さんに言わずに出かけて行くのも心配だし……」


あたしがちょっとむくれたように言うとシャルルは宥めるようにあたしの髪に触れながら言った。


行き先に関してはオレから言っておく。だがマティスはもう十歳だ。専属のSPが常に付いているし、ある程度の交友関係は認めてもいいだろう」


十歳っていうと日本では小学四年生なんだけどフランスには飛び級制度っていうのがあって優秀な子は年齢に関係なく先に進む事ができる。かつてシャルルがそうだったようにマティスもすでにコレージュに通っている。
子供の成長は喜ぶべきことなんだけど手が離れていくのはやっぱり寂しかった。
マティスが生まれた時、シャルルにそっくりでホッとしたのを覚えている。
ふわふわの産毛もしっかりと白金髪で澄んだ薄い灰色の瞳であたしを見つめる姿はまるで天使のようだった。
小さい頃はあたしの姿が見えないとすぐ泣いていたマティスが学校から帰ってもまた出かけて行っちゃうなんて時が経つのは早い。

「こんな事ならあんたに成長を止める薬でも作ってもらえば良かったわね」


あたしがそう言うとシャルルは参ったといった顔をした。

「勘弁してくれ。そんな物を作ったら君はいつまでもマティスにかかりっきりになる。さすがにオレが耐えられない」


シャルルは笑いながら言っていたけどあたしを真っ直ぐに見つめて真剣な顔をした。

「君のおかげで人嫌いのオレが家族を持つ事ができた。本当に感謝しているよ」

あたしを抱き寄せると頬を傾けた。互いの唇が触れようとした瞬間にドアをノックする音が聞こえた。
タイミングの悪さにシャルルの眉がピクッとした。あたしをそっと離すとドアに向かって声をかけた。

「取り込み中だ」

するとドアの向こうから声がした。

「ただいま帰りました」

あたしはさっとシャルルから離れるとドアに向かいマティスを見て驚いた。

「それ、どうしたのよマティス?!」


つづく

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みなさん、新年おめでとうございます。
今日は成人式ですね。通勤途中で着物姿の新成人を見かけました。
なので子供の成長をテーマに創作してみました。次回はまだ書いていないのでお時間をいただきます。またフライングしちゃいましたがお待ち下さい。
今年もどうぞよろしくお願いします。