きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の証50000hit感謝創作11

こうして和矢の後ろ姿を見送るのは何年ぶりだろう。うちのアパートの階段を駆け下りて行く姿を何度も見送った事を思い出していた。
パリ・プラージュの会場の人混みの向こうに最初に和矢の姿を見つけたあたしは隣にシャルルがいる事も忘れて思わず立ち止まりそうになってしまった。その場にいた人達がセピア色に染まる中、和矢だけがそこに存在しているようだった。でもそれは恋をしていた昔のようなときめきとは少し違っていた。
その時あたしは思った。
和矢はあの日の約束を果たすためにここに来たんだって。
何を見ていたのかってシャルルに聞かれたけど和矢がいた事は言わずに適当にごまかした。あれこれと突っ込まれたらどうしようかと思ったけどシャルルはそれ以上何も聞いては来なかった。

和矢を見送り、あたしも一旦部屋に戻ることにした。
今朝は少しバタバタして出たのに部屋はすっかり整理整頓されていていつも通りになっていた。
今日はお屋敷には戻らずにテトナ島にそのまま向かう予定だったからメイドさん達の仕事の早さに関心してしまう。あたしだったら明日までに終わらせればいいやって思っちゃうもの。
置かれた家具も装飾品も壁を飾る絵画に至るまで全てが眩しいほどに磨き上げられていた。
どれもこれもシャルルのお父さんがこの部屋を使っていた頃からあった物ばかりなのかな。未だにこの部屋に一人でいるとどうにも落ち着かない。あたしには不釣り合いな感じがしてしまうの。
その時、静寂を打ち破るかのようにドアノッカーがゆっくりと二回叩かれた。
誰だろう。
シャルルなら自分で開けて入ってくるもの。
防犯上の理由からシャルルの私室はオートロックと虹彩認証っていう瞳の奥の何とかっていう膜の模様を登録した人しか開錠することはできない。
あたしはドアに近づいてモニターを確認した。そこに映っていたのは着替えを済ませた和矢だった。そっか、さっきまた後でって言ってたっけ。
あたしは急いでロックを解除してドアを開けた。

「前はこんなのなかったのに。すげぇセキュリティだな。これ虹彩認証?」

外側に備え付けてある液晶画面を見て和矢は驚いていた。あたしが来てから元々あったオートロックと併せてシャルルはこのシステムを導入した。

「そうよ。瞳の模様で判別するみたい」

和矢は感心した様子でその画面を見ていてふと自嘲的に笑った。

「シャルルも大げさなだよな。オレ、家にこんなのがある奴見たことないや。……お前大事にされてるんだな」

そう言ってまっすぐに見つめられてあたしは戸惑い俯いた。
そんな風に見つめられると申し訳ない気持ちでいっぱいになってあたしはなんて言っていいのか分からなかった。
和矢を嫌いになって別れたわけじゃない。付き合い始めて半年ほど経った頃、別れようって言い出したのは和矢だった。
いつの間にかあたしの中で一番になっていたのはシャルルだった。
あの時、シャルルと離れてみてそれがよく分かったの。
あたしは和矢と日本に残ってからしばらくして自分が選んだ道が間違いだった事に気付いた。
日を追うごとにシャルルが恋しくなってきて苦しかった。
そんなあたしの気持ちに気付いて和矢は別れようって言ってくれたんだと思う。

「なんて顔してるんだよ」

そう言ってあたしの頭をポンポンと撫でる。

「少し出ないか?」

部屋でマンガばかり書いて引きこもるあたしを和矢はいつもこう言って連れ出してくれてた事をあたしは思い出していた。







つづく