きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の証50000hit感謝創作7


「和矢っ!クロードを呼んで来い。AEDを持っているはずだ」


和矢は救急車を指差して言った。


「おい、シャルル!クロードを探しに行くよりあれに積んであるやつを使った方が早いんじゃないのか?!」


オレは和矢を振り仰ぎその言葉を否定した。


「それは積んであればの話だ。あのタイプの救急車は患者を搬送するだけで医療機器は何もない」


「分かった」


和矢は身を翻し駆け出して行った。
日本と違いフランスの救急車は有料のためにいくつかタイプがある。民間で運営している物は医者が乗っている場合もあるが高額のため、身内が呼ぶ場合と違い、一般に依頼した場合は価格が安い搬送のみのタイプを呼ぶ事が多い。費用は患者負担になるからだ。



「ルイっ!?ルイっ!」


母親か?
人ごみの中から一人の女性が駆け寄ってきた。すかさず救急隊員が女性を制止する。


「ご家族の方ですか?今、先生が処置してますので落ち着いて下さい」


子供が居なくなった事に今ごろ気づいたのか。


「先生っ!その子をどうか助けて下さい。あぁ、どうしてこんな事に……」


オレは冷やかな視線を女性に向けた。


「最善は尽くす。だからそこで静かにしていてくれ」


オレは胸骨圧迫と人口呼吸を繰り返しながら救急隊員にタオルを用意するように指示をする。体が濡れたままではAEDは使えない。


「これでよろしいですか?」
「それでこの子の体を拭いてくれ」


子供の服を脱がしていた救急隊員の手が一瞬止まった。


「先生……」


「問題ない」


人集りを掻き分けるように和矢とクロードがAEDを手に戻ってきた。


「そこに置いてくれ」


AEDキットを開き電源を入れる。自動音声が流れ、胸部にパットを貼り付けた。


「離れろ」


スイッチを押し除細動を施す。そして再び胸部圧迫を繰り返した。再度AEDから音声指示が流れ、再び除細動を施すと子供は小さく声を出してわずかに動いた。
よし、戻ったか。


「やったな、シャルル!」


張りつめていた空気が一気に解け、その場にいた誰もがほっと息をつく。
すぐさま救急隊員によって子供は救急車へと運ばれて行った。
その様子を目で追いながらオレはクロードを呼び寄せた。


「あの子がどこの病院へ運ばれるのか調べるんだ。それからマリナを連れて屋敷に戻っててくれ」


「かしこまりました」

和矢は怪訝そうな顔をする。

「何かあるのか?」

「あぁ、一つ気になる事がある。オレはこのまま病院に向かう。そこで提案だが、もしこの後予定がないなら屋敷で待っててくれないか?」


和矢は濡れた髪をかきあげながら自嘲的な笑みを浮かべた。


「お前の提案って命令だろ?」


「いや、あくまでも提案だ。その肩を診てほしいならね」


「世界一の名医に診てもらうんじゃ待つしかないな」


こうしてオレは和矢と別れ、病院へ向かった。
パリの街並みが流れていく。オレは車窓からそれを眺める。今ごろ二人は再会を果たしているのだろう。
胸の奥が再び騒ついている。



つづく