きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛の証50000hit感謝創作9


シャルルが出て行ってからしばらくすると遠くの方から救急車のサイレンの音が聞こえてきた。次第に大きくなるそれは辺りの空気を震わせながらこちらに近づいてくる。テントのすぐ近くでその音はピタリと消え、事故現場が近いことをあたしは確信した。
シャルルにはここで待つように言われたけどやっぱり気になる。落ちた子供は無事なのかしら。

あたしは外の様子を窺おうと立ち上がり、足はまるで吸い寄せられるように自然と出口に向かっていた。その途端SPの人に止められてしまった。

「マリナ様、一般の方も大勢いらっしゃいます。どうかこちらでお待ち下さい」

言葉はとても丁寧だっだけど有無を言わせない雰囲気を漂わせている。面倒は御免だと言いたげにあたしの前へ立ち塞がる。表情は何一つ変わらず、じっとあたしを見降ろしている。

きっとこの人もシャルルに仕えているだけであたしには何の興味もない。
いざという時SPの人達は自分の命を投げ打ってでも主を守るのが仕事。彼らにとってシャルルはそれに相応しい人間だし彼らも主を守ることを誇りに思ってこの仕事をしているはずだわ。
それなのに何が悲しくてあたしのお守りなんてやらされてるんだろうと思っていたとしても仕方がない。彼らにとってあたしは何の価値もないんだもの。

「そ、そうね」

あたしは諦めて大人しく待つことにした。歓迎されてないのは日々感じていることだった。もちろん使用人の中にもそう思っている人は少なくなかった。
でもそれも考えてもみればアルディ家の家の人間でもないあたしがちゃっかりお世話になっているんだもの気持ちは分からないでもない。
嫉妬とか羨望とか、そういう人間の持つ負の感情に触れる度にあたしは自分がシャルルには相応しくないんじゃないかと考えるようになっていた。好きだけでは越えられない何かに気付き始めていた。
あたしは大きく息を吐き、それらの負の感情を自分の中からも追い出した。

まもなくクロードが戻ってきた。あたしは息をのんだ。一緒に戻ると思っていたシャルルの姿はどこにもなく代わりにいたのは和矢だった。

「和矢……」

その名前を口にするのは何年ぶりだろう。

「久しぶりだな、マリナ。元気にしてたか?」

濡れた髪をかき上げる仕草、優しい眼差しは今も昔も変わらなかった。通っていた小学校に何年かぶりに訪れた時のような懐かしさが込み上げてきてあたしは胸が詰まる思いがした。

「ずぶ濡れでどうしたの?」

濡れたせいで肌にぴったりとくっついたTシャツを手で摘みながら照れた顔をする。

 
「あぁ、これね。ちょっと人助けでセーヌを泳いできたんだ」

それを聞いてあたしはハッとした。さっき子供が溺れたって言ってたけどもしかしてその子を助けたのは和矢なの?

「あんたが子供を助けたの?」

すると和矢は頭を掻きながらバツが悪そうにした。

「助けに行ったんだけどさ、オレも危うく溺れてかけて結局アイツに助けられた」

和矢の言うアイツってシャルルのことよね。こうして話すのも何年ぶりかだけど和矢の口からシャルルの話を聞くのはとても懐かしく、あたしは何だか胸が熱くなった。あの時、二人はこれまでの関係を自分達の手で破壊した。新たな関係を見出すため、それぞれの思いをかけて。
それが突然の事故によって二人は偶然にも再会したんだ。



「それで子供は?シャルルはどこにいったの?」


あたしが尋ねると黒く澄んだ瞳に切なさが広がっていく。それは長い間あたしの中でずっと一番の場所に存在していた和矢がその場所をシャルルに明け渡したという事実にやりきれないと言った表情だった。


「子供は無事だ。何か気になる事があるって言ってアイツも病院へ向かったよ」


あたし達の会話を黙って聞いていたクロードが二人の間を割るように入ってくる。


「シャルル様よりマリナ様と和矢さんをお屋敷に連れて行くようにとの事です。すぐ近くに車を待たせています」


あたしは和矢と共にパリ・プラージュの会場をあとにした。




つづく