その日の夜、あたしはシャルルの仕事が終わるのを待って一緒に夕食をとった。
最後のデザートをあたしが食べ終わったタイミングでシャルルも僅かに残るワインを飲み干した。
「一人分で足りたのかい?」
「やめてよ~!もう昔みたいに食べたりしないわよ。」
あたしがふくれっ面で言うとシャルルはクスッと笑った。
あの頃のような食欲はもうないし、この後の事を考えただけでお腹いっぱい食べる気になんてなるわけないじゃないと思いながらあたしは持っていたフォークをお皿の上に置いた。
「それじゃ行こうか。」
シャルルはナフキンで口元を拭くと立ち上がった。
シャルルと並んで歩く長い廊下。
何度も行った事もあるし、朝まで居たことだってあるシャルルの部屋。だけど今夜は…シャルルと初めての夜。
緊張しすぎてまともに歩けてるのかさえ分からなくなるほどだった。
渡り廊下に差し掛かった時に窓の外をふと見れば大粒の雪が降っているのが見えた。
「ねぇシャルル、雪よ。」
立ち止まってシャルルは窓の外を見ながら言った。
「ああ、初雪だな。普段は雪の少ないパリだけど今夜は積もりそうだな。明日の朝は銀世界が見られるかもしれないよ。」
シャルルはそう言っただけなのにあたしには「明日の朝は二人で銀世界を見よう」に聞こえてきてしまう。
朝までシャルルと二人きりになると思ったら急に足が止まってしまった。
「どうかした?」
シャルルも立ち止まり心配そうに声を掛けてくれる。
「ううん、何でもない。」
あたしは小さく首を振った。
だけどシャルルはあたしの不安を感じ取ったようだった。
「マリナ…無理しなくてもいいんだよ。今朝はあんな風に言ったけどオレは君がそばにいてくれるだけで十分だよ。とにかく部屋まで送るよ。」
優しく語りかけるように言ってくれるシャルルの顔はどこか寂しげであたしが躊躇っているのを察してくれているのが分かって胸が苦しくなった。
あたしはシャルルが好きだから、緊張もするし怖いけど…でも一緒にいたい。
あたしは来た道を戻ろうとするシャルルにそっと手を伸ばした。
「待って、行かないでシャルル。
今夜はあんたとずっと一緒に居たい。」
「マリナ…っ」
瞬間シャルルは白金色の髪を揺らして振り返るとあたしを引き寄せ、その胸にきつく抱きしめた。
「オレと一緒に居たいって…マリナ、本当に?」
あたしがシャルルの胸の中で頷くと体がふわっと宙に浮いたの。
「もう待ってやれないよ。」
そう言ってあたしを軽々と抱え上げると額にキスをした。
つづく
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みなさん、こんばんは!
ちょっと良い雰囲気になった所で終わりにしてしまいました。
私の住む地域では昨日が初雪でした。
見事にダイヤが乱れ通勤に倍以上の時間と体力を費やしましたみなさんの中にもご苦労なさった方いますよね?
子供の頃はあんなにワクワクした雪なのにね。
創作の方は昨夜の雪を見てエピソードを入れているうちにマリナちゃんの不安とか葛藤を書きたくなっちゃって、またたどり着けませんでした。
もう次回は限定記事です。って言うのはやめますね