きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

la douce pluie 39

車は静かにアルディの門を抜けて本邸の正面につけられた。
ブリスは運転席からこちらへ周り込むとドアを開けた。

「案内致します。」

玄関で待ち受けていた警備がオレの左右に張り付きブリスの後に続いて本邸内へとオレは入った。
玄関ホールを通り長い廊下をしばらく歩くと地下への階段が見えてきた。


「こちらです。」


先を歩くブリスはオレの様子を気にしながら振り返り、階段を降りていく。
本邸で生活をする中で地下への階段を使うことはまずない。外からの光が届かない分、どことなくヒンヤリした空気が辺りに漂っている。
だが懐かしい空気感にオレは包まれていた。
ブリスが一つの部屋の前で足を止めると真新しい扉を開けた。
オレは入り口に立ち、息を飲んだ。

そこはかつてのオレの部屋だった。
母と共にアルディ家に連れて来られたオレが人目につくこともなくひっそりと暮らしていたあの部屋だった。
あの当時は部屋の出入りは上階の母の部屋からのみ可能だったが今は扉が作られていた。
懐かしさと共に複雑な思いがオレの心を揺さぶる。ここで長い時間を過ごしていた忌わしい記憶が蘇る。

「こちらでお待ちください。」

ブリスはそう言うとオレを残し部屋を後にした。扉を閉めるガチャリという音だけが静寂を掻き乱すかのようだった。
外からの解錠のみで中からは開けられないように作られている。開かないのは今も昔も変わりないといったところか…。



スカイブルーを基調としたこの部屋は青空の下、自由に生活できないオレを思って母が選んだ色だった。外に出る事を禁じられただひたすら人口の光を頼りに遊んでいた日々を思い出す。
当然、この部屋に窓はなく壁一面には何千冊もの本が今でも並べられてあった。幼いオレはこの部屋でそのあらゆる方面の本を読みふける事で時間を費やしていた。時間はいくらでもあった。
それは幼いオレにとって果てしなく続く孤独な時間だった。
胸にチクリと痛みを覚えた。直後、脳内で映写される断片的な記憶。
オレは首を振り、チッと舌打ちした。

「フラッシュバックか…。」


視線を上げるとそこには壁に掛けられた一枚の絵があった。
これはかつて母がオレを描いた物だった。薔薇に囲まれてこちらを見つめる幼い自分の姿がそこにあった。一度だけ中庭にある薔薇の温室に連れて行ってもらったことがあった。
それは夜の闇の中、こっそりと母が連れ出してくれた最初で最後の母との散歩だった。

アルディ家の人間は剣の精が薔薇の上に落とした涙から生まれ、そして薔薇に還ると母から聞かされた事は今でも鮮明に覚えている。

「ごめんなさい…ミシェル。
こんな夜にしかあなたを連れ出してあげられなくて…。」


母の言葉が頭の中で繰り返される。
頬を伝う涙を目にしたオレはただ母の手をそっと握ることしか出来なかった…。
懐かしさ、切なさ、温もり、孤独…。

オレの許可なく色々な感情がオレの中へとなだれ込んでくる。オレはギュッと目を瞑りそれらの感情を胸の奥底へと抑え込んだ。



制裁の始まりか…。
それとも…。




つづく

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みなさん、こんにちは!

梅雨に入りましたね。ジメジメ…(>_<)
日によって気温差もかなりあって体調には気を付けて下さいね。通勤電車の中でもマスクさん結構多いです。


さてさて更新が遅くなりましたがお待たせしました
え?待ってない?!←いつものです。
一週間は空けずに更新したいと思ってます。毎週日曜だと、いいとも増刊号みたい?←古っ!


双子対決は次回になります。
たぶん…。