愛はそこにある…je crois 11
「泣く事以外にもあなたには出来る事があります。」
私に出来ること?
泣いて浮腫んだ顔をあげた。
「なにをすればいいの?私に何が出来るの!?」
私はクレールを縋るような目で見つめた。
「身を引くことです。」
えっ?身を?
「シャルルとの関係を終結させ、二度とアルディ家と関わりを持たない事です。」
シャルルと別れるってこと…?
私たちが別れたからって兄上とは何も関係ないじゃないっ!?
「分かるように説明して!」
クレールは長いまつ毛を伏せると、強い意志をブルーの瞳に宿して私を真っ直ぐに見つめた。
「マリナさんが身を引くとは、つまりシャルルが自由になると言うことです。
このままでは取引を不成立に終わらせ、アルディへの背信行為とみなされたシャルルは当主の座を追われる事になります。
しかし取引相手のモンドフォール家にはご令嬢がいます。
アルディ家からの結婚の申し入れを断れる家は恐らくどこを探してもいないでしょう。
これにより家宝はアルディ家へ戻る事になるはずです。
アルディ家としてもイギリス伯爵家との繋がりはこれから先、利益に変えられます。
少なくとも平均的な日本人のマリナさんよりもです。
ここまで話せばお分かりになりましたか?」
シャルルと、さよなら…するの…?
私が出来る事って別れることしかないのっ?!
悔しくて唇をギュッと噛み締めて、俯くしかなかった。何の取り柄もない日本人の私とシャルルには始めから未来なんてなかったのかもしれない…。シャルルには守るべき物がたくさん存在する。常に選択を迫られながら一族を代表する立場なのよね。そのシャルルの相手が私であるはずがないのは分かっていたつもりでいた。
でもいざ、こうして現実を突きつけられると迷わずにはいられない。
だって、私はシャルルを愛しているんだもの。
シャルルと別れてしまって本当にいいの?
シャルルに何も相談しないままで後悔しない?
だけど唯一のシャルルを救う方法がこれしかないなら…。
迷っている時間はない。
私は両手に拳を握ってクレールを見上げて言った。
「分かった。あんたの言う通りにする。
シャルルとは…もう…会…ない…」
これしかない。これしか私には出来る事はない。分かってるけど、言葉につまる。こんな言葉を言う日が来るなんて。
だけど、シャルルが当主を追われて孤島送りになるなんて、もっと考えられない!
悲しくて、悔しくてどうにも出来なくてもシャルルの立場は守られるし、兄上も治療が受けられるわ。
「だけど、突然私が別れようって言い出したってシャルルは認めないと思うわよ。無理にでもパリに連れて来られると思うけど…。」
私の答えが満足のいくものだったようでクレールは小さく頷き、微笑んでみせた。
「あなたが正しい判断が出来る方でこちらとしても有難く存じます。
これで響谷氏の治療に行きながら、
クレアシオン=レガリアも取り戻す事ができます。シャルルは家宝を回収し、イギリス伯爵家の令嬢との婚姻によって新たな道が開けることでしょう。
マリナさん、あなたの勇気と愛情に敬意を表します。
まずは日本へ向かい、響谷氏の治療を行い、フランスへ戻る時にあなたは日本に残って下さい。あとはこちらで処理します。
そして、この事は誰にも話してはなりません。漏らせばシャルルによって阻止されかねません。
その後はアルディ家との連絡は一切取れなくなります。では時間がないのでお戻り下さい。」
クレールは私を廊下へと促し扉を開けるとお辞儀をして私を見送った。
背中の方から小さな声が聞こえた。
「どうか、お元気で。」
つづく