きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛はそこにある…je crois 27

「シャルル、起きれますか?」

もう朝か…。
つい深く眠ってしまったようだな。
ベットに吸い寄せられ、捕らわれたかのようだ。
体を起こし、カーテン越しに陽を浴びてオレの意識は次第に覚醒していく。

「どうした?ジル…」



「先ほどモンドフォール氏から交渉は無かった事にして頂きたい、と連絡がありました。シャルルには申し訳ないと伝えて欲しいと…。
シャルルと直接話すように勧めましたが、すでに決めた事だからと言うばかりでした。」


「なんだと?!」


またしてもクレールか?!
いや、クレールには監視をつけてあったが何の報告もない。
クレールがこちらの動きに気付いて他の人間を使っているというのか?

「すぐにモンドフォール氏に電話を繋いでくれ。」


連絡はついたが一足遅かった。
すでにクレアシオン=レガリアは売買契約され、手放したそうだ。
オレが出向いた時に売買金額の交渉は後日がいいと言ったのはモンドフォール氏だ。いくらでも構わないと伝えておくべきだったか。

一体誰と契約を交わしたんだっ?!
縁談もなくなり、アルディ家に義理立てする必要もなくなり、高値での取引に靡いたといったところか…。

だが、あれはアルディ家にとっては貴重な家宝だが他の者にとっては装飾の施された杖でしかないはずだ。宝石は埋め込まれているが高値で買い取る意味などあるというのか。

取引相手の名前は聞き出せなかった。
しかしタイミングが良すぎる。
ジルに視線を向けると同意見なのだろう。一つ大きく頷いた。


「すぐにクレアシオン=レガリアの行方を追うんだ。掠めるような真似をした人間を探し出せ。」





******************

「ずっと居たってこっちは構わないんだぜ。本当に帰るのか?」

薫が心配してくれているのは良くわかる。でもいつまでもお世話になっている訳にもいかないし、1人で生活していかなければいけない。
仕事だって今はない。
とりあえずマンガを書いて出版社に持ち込む所から出直さないと。


薫と一緒にいたおかげで現実と向き合う元気が少しだけ出てきたみたい。仕事をしないと生きて行かれないものね。
電車で帰るからって断ったんだけど、

「人の好意は素直に受けておけばいいんだよ。」

って薫が言うのでお言葉に甘えて、響谷家の車でアパートまで送ってもらうことにした。

「困った事があったらいつでも連絡してくるんだよ。親友に餓死でもされたら堪らないからなぁ。
まったくおまえさんは、玉の輿かと思ってりゃ勝手に自分から別れる始末だ。
こっちは驚かされてばかりで心臓に悪い…。まぁ、マリナが決めた事だから何も言わないけど、しっかりやれよ。」


餓死って…。
口は悪いけど薫の言葉が私の背中を押してくれる。
シャルルとは別れてしまったけど兄上も安定したようだし、薫もこれで安心出来たはずよね。
あとは…シャルルが結婚して家宝を取り戻す事が出来れば全て上手くいく。

車中であれこれと考えているうちに心地よい揺れにすっかり眠ってしまった私はアパートの前の道で起こされた。
運転手さんにお礼を言うとアパートへと入った。

パリから持ってきたバックを床に置いた。わずかな着替えしか持ってなかった。シャルルに足りない物は日本で揃えるように言われたから持ち出せなかったのよね。

「君のパスポートはオレが…」

あっっ!! パスポートっ!
返して貰ってなかった。
シャルルったら私に渡すのを忘れてパリに持って行っちゃったんだわ。
失敗したなぁ、ちゃんと貰っておけば良かった。



…と思ったけどシャルルが忘れるはずない。うっかりとか間違って、とかあるわけがないもの。
つまりパスポートは私に持たせるつもりはなかったんだわ。
パリに戻るって私が連絡をしたら迎えに来るつもりだったんだ。

もうパスポートは無くても困らないか…。この先海外に行くこともないだろうし。




そんなわけで私は小さなバック1つで再スタートをすることになったの。
懐かしい我が家…。とりあえず買い物に行って必要な物を買わないとだめね。

薫に借りたお金を握りしめスーパーへと向かった。長い間パリで暮らしていたおかげで目にする物、全てが懐かしい。
日本語が溢れているわ!

セール品のカップ麺を何個かとシャンプーなどの日用品を揃えた。

お父さんの反対を押し切って家を飛び出したばかりの、あの心細さと似たような思いになった。
あの時もこのスーパーで最低限の物を揃えに来たっけ。
薫に借りたお金しか今は頼る物がないので大切にしないといけない。
シャルル名義のゴールドカードは使うつもりはなかった。思い出として引き出しにそっとしまった。

アパートへ戻ってこたつにもぐる。
マンガ書かなきゃ…
紙とペンを目の前にして構想を考えた。
恋愛物、冒険物、恐怖物、サスペンス…何にしよう

私は特に何を考えるでもなく、自然とシャルルを書いていた。
シャルルの後ろ姿。
小さくなっていくあの日の姿だった…。


紙に涙が落ちてシャルルが滲んでいく。
1人になるとやっぱり思い出してしまう。今でも手首にはブレスレットが煌めいている。シャルルとはもう会えない。


私はただの売れないマンガ家だし、最初からシャルルとは釣り合うはずがなかったのは分かっていた。
いつかこんな風にして終わってしまうかも知れないって考えた事もあった。
だって好きなだけでは一緒にいられない事だってあるのよ。

シャルルはフランスの有名人。
私は普通の日本人。出会えた事さえ奇跡みたいなものよ。




その夜は1人をイヤと言うほど感じて眠った…。







つづく