アルディ家にはヘリポートが完備されている。そこからヘリを飛ばしてパリ市の北東十数キロの所にある飛行場まで行き、日本へ向かうのが最短だとシャルルが言っていた。
とにかく急いで日本に向かわないと!
シャルルは薫の様子を見終えると医療チームのアベルに薬を持って来るように指示をした。ガイにはしばらく薫を見ているように言うと部屋を出て行った。
シャルルはきっと日本に行く準備に居室へと向かったのだろう。
しばらくして白衣姿のアベルが薬を持って部屋に来た。ソファで横になっていた薫を起き上がらせるとカプセルを飲むように言って水と一緒に渡した。
「心筋を拡張する薬です。シャルル様の診断は、以前のような発作ではないですがストレスにより心筋が緊張して固くなり胸の痛みが起こったものであるとの事でした。これから長時間のフライトになるので、こちらを飲んでおくようにと言っておりました。」
薫はカプセルを受け取ると口の中に放り込み水と一緒に流し込んで、吐息をはいた。
だいぶ落ち着いてきたようで私も少しだけ安心したの。だってもう発作はずいぶんないと言っていたばかりだったもん。
やっぱり兄上の危篤を知らせる電話は薫に過度のストレスを与えたんだわ。
日本にいればすぐにでも向かうことが出来たのに…。ここは遠く離れたパリ。
プライベートジェットだから、出国手続きなどに時間を取られることはないにしても移動だけで12時間は掛かってしまうわ。
私を心配してパリまで来てくれていた薫に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
私の不注意で事故に遭って記憶をなくしていたのがいけなかったんだわ。
薫にすぐに連絡をしていたらこんな事にはならなかったかもしれない。
そんなことを考えながら私もパスポートとか荷物とか、しばらく日本に滞在することになるから準備をしてこようと思った。
ずっと薫の側に付いていたかった。兄上の容体が安定するまでは側にいてあげようって心に決めていた。私にはそれぐらいしかしてあげられないもの。でも1人きりで不安でいるよりは誰かが側にいた方がずっと心強いはずよね。
「私も簡単にだけど荷物をまとめたいから少しだけ薫をお願いするわね。それほど荷物はないからすぐに戻るわ。」
ガイにそう言い残して私は部屋をあとにした。
急いで居室へ向かう途中でジルに呼び止められた。
「マリナさん、少しだけお時間いただけませんか?」
どうしたんだろう。表情は硬くいつもの天使のような優しい笑顔は隠されていた。もしかしたらジルも薫の事を心配してくれているのかもしれないと思った。
「ごめん、ジル。急いで日本に行かなきゃいけないの。薫の事だったら心配しなくて大丈夫よ。シャルルが付いていれば安心だもの。悪いけど今は時間がないからまた後にしてもらっていい?」
私がそう言うと、
「マリナさん、どうしても今聞いてもらわないといけないのです。時間は取らせませんのでこちらへ。」
ジルは何時に無く真剣な眼差しで私を見つめている。
普段の優しい雰囲気とは違い、思い詰めた様子の彼女を私は拒むことが出来なかった。
私はジルの後に続いて部屋へと入った。
「2人だけでお話したい事があってこんな形を取らせて頂きました。」
先ほどの厳しい表情は消え去りいつもの優雅で繊細なジルに戻っていた。ただ、真っ直ぐに私を見つめる青灰色の瞳には凛とした光が宿り、強い意思がそこに存在していた。
つづく
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みなさま、こんばんは(^o^)
日に日に寒くなってきますね。今年もあと少しで終わってしまいます早いですよね。
次回より舞台を日本に変えて話が進んで行く予定です。巽氏の状態や薫の持病について触れる回もあります。
しかし、私は医療知識かあるわけではないので間違った解釈や、都合の良い方向に勝手にしている場面もあるかと思います。それを本職とされてる方の目に触れる事や、不快に思われる方がいらっしゃるかもしれないために限定公開にさせて頂きたいと思います。
医療の話題以外は限定はしない予定です。それでも読んでくださる方がいらしたらゲストブックにてお手数ですが一言だけ登録したよ~とお知らせ下さい。