「カチャッ」
扉が開けられ、シャルルが白衣に着替えて戻ってきた。
ベットで寝ている私の隣へ来ると椅子を引いて座った。
持ってきた治療に使う道具をテーブルに几帳面に並べると私の方をじっと見つめて話を始めた。
「マリナ、あの時の傷を放置していただろう。
化膿した部分から菌血症を起こし、敗血症へと移行した可能性がある。
とにかく急いで採血をして培養検査に出さなくてはいけない。
君は危険な状態かもしれないんだ…。」
絞り出すように言ったシャルルの顔が、あの時と同じだった。
「オレがどれだけ胸が張り裂ける思いでいたか分かるか?」
シャルルの言葉を思い出していた。
私はまたシャルルにあの時と同じ顔をさせてしまった。
誰かに狙われたわけでもなく、自分の不注意から…。
私を失うかもしれないと心配させてしまった。
こんなに遠く離れた日本にいながら私は何も変わってない。何のために別れたのよ。今もこうしてシャルルに助けられて迷惑をかけて心配させて、私は自分が情けなくなる。
涙を流し、悪寒に身を震わせ、私はシャルルの悲痛な心の叫びを肌で感じていた。
「心配ばかりかけないでくれ…」
手を伸ばし私の涙を拭いながらシャルルは苦しみの中から言葉を漏らした。
扉をノックしてシリルが入ってきた。
採血の準備を始めたシャルルに向かって
「何かすることはある?」
シャルルは視線は合わせないままシリルの問いに応える。
「オレが全てやる。何もしなくていい。
ただ…マリナといた理由をオレに分かるように説明しろっ!」
胸に突き刺すような痛みが走る。
シャルルに誤解されたくないっ!
「オレが勝手に好きになって日本まで追いかけて来ただけだ。」
シリルがはっきりとした声でシャルルに向き直る。自分の想いを伝えるために。
私の気持ちなど関係なくシリルは挑発的な笑みを浮かべてシャルルへと更に言葉を続けた。
「でも2人は別れたと聞いたよ。
それなら何も問題はないよね。」
シャルルは何も答えない。
青灰色の瞳を絶望の影が覆い始める。
誤解された…。シャルルが怒りを抑え込んでいるように見えた。
私の腕から採血をすると次に点滴用の針を刺しテープで固定する。
違うの…シリルとは何でもない。
それだけは言いたかった。
もう、あんた以外の誰かを好きにはならない。
「違うの…うぅ…っ」
声が震え、涙が溢れ言葉が出来ない。
私の言葉は届かない…。
点滴が落ちるのを確認するとシャルルは採血管を手にして何も言わずに部屋を出て行った…。
つづく