きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

心をこめて8

別邸でのメイドの仕事も何とか終わり、勉強の疲れもあって本邸へ戻るとクタクタで私は部屋でうたた寝をしていた。

小さなシャルルとミシェルが仲良く遊んでいる夢を見ていた。二人は夢中になってお絵かきをしている。周りには何枚も紙はあるのに、一つの紙で二人して何を書いているんだろうと近付いて覗きこもうとして目が覚めた。

ミシェルと話して二人が良い関係になったことを実感してこんな夢を見たのかしら?私がミシェルにお茶なんか入れるようになるなんて不思議な感じだもん。

夕食を食べに食堂へ向かう。シャルルがいないと一人きりで寂しかった。食べ終わると部屋に戻り少し絵を描いてみた。さっきの幼い双子を…。



次の日も次の日も別邸へ行き花を飾り、ミシェルのお茶の準備をしていた。
慣れてきた私は花選びもお茶を入れる手際も良くなり上手になってきた。午後のお茶の準備をしているとミシェルが私を誘ってきた。

「マリナちゃん今夜はオレとディナーをしていかないか?一人も飽きてきてるんだ。」

本邸でも一人きりのディナーだし、ちょうどミシェルと話もしたかったから
「そうするわ。一人より二人の方が楽しいしね」そう言うとミシェルはパッと花が咲くように微笑んだ。
「じゃ仕事を早く終わらせるんだよ」と言ってウインクした。

私は仕事を終えて控え室でメイド服を脱ぐとシャワーを借りてワンピースに着替える。食堂へ向かうとミシェルはすでに待っていた。

「メイド服の君も可愛らしいが、今日のワンピースも素敵だな。さぁ座って。」

眩しそうに私を見つめて席に案内してくれる。本当にシャルルとよく似ているわ。声を聞かなければ見分けがつかないほどだった。

「マリナちゃん好きなだけ食べていいよ。今夜は久々に人とディナーを一緒にするよ。アルディに来てからはずっと一人だったしね。孤島にいる時も、もちろん一人だったが…。」

ミシェルもずっと孤独だったのよね。
両親から離されて暮らしていたんだもの。今はアルディ家に戻っているけど、両親は亡くなってしまったし…。
シャルルと本邸で一緒に暮らせばいいのにって私は思って言ってみた。

「あんただってアルディ家の人間だし、今からだって兄弟一緒に暮らせばいいじゃない!何も別邸で離れて暮らさなくたっていいのに。」


私がそう言うとそれはないと言わんばかりに首を小さく振ると
「アルディ家本家の長男は特別なんだ。たとえ双子であっても待遇は全く違うんだよ。本家で一緒に暮らせはしないんだよ。オレは当主の座には興味もないし、気楽な弟で良かったと思ってるけどね。」

そう言うと別に何ともない事だと言うかのように自嘲的な笑みを浮かべる。ミシェルはワインを注いでくれて私たちは乾杯した。
「ワインも好きなだけ飲めるし、こうして女性とディナーも出来る。仕事もあるし、自由でもある。今でもオレは十分なんだよ。」

アニーが給仕係りだった。遅くまで働いているのね…。本物のメイドは大変そうだわ。
ミシェルの用意してくれたディナーは本格的なフランス料理のフルコース!!

「どれもとっても美味しかったわー!!ミシェル今日は本当にありがとう。あんたがこんな近くに暮らすようになったんだもの。メイドの仕事が終わっても私は遊びに来るわ。またお話しながらディナーしましょうね!」

私が感激しているとミシェルの青灰色の瞳が切なく影を落とした。

「きっと二人で食べる事はもうないよ。
兄上がいい顔をしない」

私は何て言っていいか困って「じゃあ今度は三人で食べましょう。」って言ってみた。他に言葉も思い浮かばなかったのよね。
ミシェルは片づけをしているアニーにチラッと視線を向けてると

「そうだね。今度は兄上様も誘う事にするよ。明日も仕事だろう?今夜はもう遅い。ここに泊まって行くといい。」

確かに帰って寝るだけだし、泊まっちゃえば来る手間もなくなるわよね!敷地内と言っても暗い中を歩いて帰るのも何だか怖い。お言葉に甘えて私はお願いしようと喋り始めるよりも先にアニーが割り込んできた。

「マリナ様、私が本邸までお送り致します。今夜はお戻り下さいませ。ジル様より本邸まで確実に送り届けるように言われておりますので。」

でも一度泊まろうって思ってしまったから帰るのが面倒だった。私が「でも…」
と言いかけるとアニーの表情に緊張感が走る。私の意見は聞き入れないと言わんばかりの強い意志の瞳が鋭く光る。

「これ以上遅くなると本邸の方々も心配されますよ。さぁマリナ様、戻りましょう。ここの片付けを済ませたらすぐにお送りします。」

それ以上、泊まると言える雰囲気ではなかったので私はミシェルにそっと「アニーって普段は大人しくて静かなのに今夜は殺気立ってない?」と耳打ちした。

ミシェルは私の言葉には応えず「まいったな…」と自嘲的に笑うと小さく呟いた。