シャルルの部屋は渡り廊下の向こう側、最奥にある。シャルルが倒れやしないかとあたしはハラハラしながら長い廊下を並んで歩いた。
「部屋に着いたらすぐに寝てよ。ダリウスが安静にしてなきゃダメって言ってたんだからね」
「やらなきゃいけないことがいくつかあってね、そう寝てもいられないんだ。でも君が一緒に寝てくれると言うなら考えなくもない」
「そ、それは……」
「どうする?オレに寝てて欲しいんだろ?」
「そりゃ、そうだけど……でも」
いくらなんでも一緒に寝るなんて急展開すぎるわ。前にも一緒に寝たことはあったけど、でもあの時は……とあたしがあれこれ考えているとシャルルがクスッと笑った。
「まだ君の期待には応えられそうにはないから横で眠るだけでいいよ」
「もう、ばかっ!」
あたしは顔から火が出そうになって思わずシャルルの肩を叩いた。
「うぅ……」
シャルルはこめかみを抑え、その場で足を止めた。
「うそ?やだ、ごめん。大丈夫?!」
焦ったあたしが顔を覗き込むとシャルルはニヤリと笑って言った。
「冗談だよ」
「も~やめてよ」
あたしが赤くなったり青くなったりする隣でシャルルはこれまでに見たこともないような笑顔を見せた。
いつもどこか孤独を抱えているような表情はどこにもなかった。何もかも手に入れたと言ったシャルルの言葉を思い出す。心が満たされ、今こうしているシャルルが本来の彼の姿なのかもしれないと思った。いつまでもそんなシャルルを見ていたい、シャルルを幸せにしたい、ううん、シャルルと幸せになりたい、あたしは強くそう思った。
それから一週間、シャルルは約束通り一日のほとんどを寝室で過ごし、本人曰く、完全復活を果たしたそうだ。
「医者のオレが言うんだから間違いない」
たしかにシャルルがそう思うなら間違いはないんだろうけど、それでも無理してるんじゃないかってあたしはすごく心配したの。
だって頭を撃たれて脳死とまで言われた人間がそうそう元気になるわけないもの。
そしたらシャルルが本当に治ったかどうか君自身で確かめてみるかって言うのよ!
確かめるって、つまり……。
「た、た、確かめるって一体ど、ど、どうするのよ?」
そう……この一週間、あたしはシャルルとの約束通り、同じベットで眠った。もちろん眠るだけよ。シャルルのぬくもりがすぐそこにある幸せは夢のような時間だった。シャルルが眠れば眠るだけ一歩ずつ回復に向かっているんだと思うとその寝顔を見ているだけで幸せだった。
だから、そういうことはもっとずっと先だと思っていたんだけど。
「もちろん、昨日までのように一緒に眠るだけじゃないってことだよ」
「そ、そ、それは……何て言うか心の準備がまだ……」
「じゃあ、いつなら準備できる?」
「いつって!?そんなのわからないわよ。来週の月曜日でお願いしますとかじゃないんだし……」
シャルルは、もごもごと話すあたしの肩に手を当て、まっすぐに見つめた。
「マリナはオレが嫌い?」
あたしはブンブンと首を振った。
「じゃあ、オレが好き?」
今度はこっくりと頷く。
「オレはね、マリナ……君を心から愛している。そのぬくもりを感じながら眠ったこの数日間はこれまでに感じたことのないほどの幸福感だった。その君の肌に触れ、君を感じたいと思うのは自然なことだと思うんだ。マリナはオレに触れられるのはいやかい?」
あたしを見つめる青灰色の瞳が優しく、そして甘く揺らめいている。
あたしだってシャルルを心から愛している。そのぬくもりを感じて幸せだと感じたのも事実だわ。
そう考えているうちにあたしは、愛し合う二人が触れ合うことは自然なことで、恥ずかしいことではないんだと思えてきた。あたしはシャルルの頬に手を当て、揺らめく二つの瞳を見つめ返した。
「あたしもあんたを愛しているわ。あたし、そういうこと初めてだから、ちょっぴり恥ずかしいけど、でもあたしもあんたに触れたい」
その瞬間、シャルルは驚いた顔をした。
「マリナ、君……はじめ……いや、何でもない」
急にシャルルは口元を手で押さえてあたしから視線をそらす。
あれ?あたし何か変なこと言っちゃったかしら?
「シャルル?」
不安になって声をかけた瞬間、シャルルはあたしの体を掬うように抱き上げた。
「ちょっ、シャルルっっ!無理するとまた倒れるわよ!」
シャルルはあたしを抱えるとまるで子供をあやすように、くるり、くるりとその場を回った。
遠心力で体をもっていかれそうになってあたしは慌ててシャルルの首にしがみついた。
ピタリと止まるとあたしをじっと見つめた。
「これほどの幸福感がまだオレの人生にもあったとはね。いつ倒れてもいいとさえ思えるよ」
「倒れるなんて二度とやめてよ。もう心臓が止まるかと思ったんだから!」
怒った顔を見せるとシャルルは少しは反省したのか、あたしをゆっくりと床に下ろした。
「たとえ君の心臓が止まっても、このオレが何度でも救ってみせるよ。君のいない人生などもう考えられない」
「あたしもよ、シャルル」
どちらからともなく唇を寄せた。甘く優しいキス。シャルルは名残惜しむように唇を離すとあたしをじっと見つめる。
「マリナ、オレが必ず君を幸せにする。誰よりも、何よりも大切にするよ」
つづく
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みなさん、メリークリスマス🎄
いかがお過ごしですか?
わが家はすでに子供が大きい為、サンタさん🎅からのプレゼントというより、一緒に買い物に行って色々と買わされる😵パターンですw
さて、最終話に向けて更新速度を上げてきましたが、ストックがなくなった上に明日からしばらく仕事が続くため速度落ちちゃうかもです💧
どうか気長にお付き合い下さい👍🏻