きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

いつかの君を忘れない 3


 
シャルルが用意してくれたのはファーストクラスのチケットだった。
座席ごとに仕切られていて完全な個室だった。素敵な白いふわふわのスリッパまで付いていた。
パリまでは約12時間ほど。
夕食をいただいた後、シートをフラットにしてもらってあたしは早々に寝ることにした。
家の布団よりも座席のシートの方がよっぽど寝心地が良くて、あたしはすぐに眠りについた。


**


「マリナ様っ!マリナ様っ!起きて下さい」


体を譲られて目を覚ますと、マルクの真剣な顔が目の前にあった。


「もうパリに着いたの?」


目を擦りながら聞くとマルクは慌しくあたしの座席を元に戻し、下から何かを取り出しながら言った。


「トラブルが起こったようです。このジェット機はまもなく海上に胴体着水するとのことです。さぁ、この救命具を付けて下さい」


マルクは手際よくオレンジ色の救命具をあたしの頭からサッと被せた。


「どういうこと?!」


「先程、後方で爆発音がしました。そのせいで飛行を続ける事が困難な、機体に何らかのダメージがあったのだと思います」


「そんな……」


そこへCAさんがあたし達の方へやって来るとマルクに声をかけた。


「お客様、席にお戻り下さい。落ち着いて。救命具を装着後、シートベルトを締めてください。当機はまもなく海上への降下を始めます。前傾姿勢であごを引き、頭部を前の座席に付けて下さい。腕は横に下ろして足に付けて、衝撃に備えて下さい」


「海に不時着するってこと?!大丈夫なの?!」


あたしは次の乗客の元へ行こうとするCAさんの腕をとっ捕まえて聞いた。


「お客様ご安心下さい。当機は地中海への着水を試みます。すでに沿岸警備隊への救命要請も済んでおり、着水後、速やかに救助してもらう手はずも整っております」


「でも、もし……」


失敗したりしたら、そう言いかけてあたしは言葉を飲み込んだ。
口にしてしまったら不吉なような、そんな気がしたからだった。
CAさんが次の乗客のもとへと向かっていく後ろ姿を見ていると、席に戻りかけていたマルクがあたしの横に来た。


「マリナ様、落ち着いて。まずは安全姿勢を取って下さい。大丈夫です。何かあった時には私が命に変えてでもお守り致します」


「そうよね、大丈夫よね」


言われた通りに頭を低くして前の座席にぴったりとくっつけた。次第に下へ下へと引っ張られるような感じがして、ほんの一瞬だけ窓の方を見た。
すると窓の外には青い海が広がっていた。
だけど小さく見えていた海は次第に大きくなっていき、想像していたよりも早いスピードで海に突っ込んでいるように見えた。


「マリナ様、頭を下げて!」


外を見てるあたしに気づいたマルクが叫んだ。


「でもこれ落ちてるんじゃない?!」


すると次の瞬間、後ろでバーンとものすごい音がした。
さすがのマルクも顔を上げて窓の外を見ている。


「まさか……」


「まさか、何っ?!」


「機体が大きく右へ傾いているようです。今の爆発でエンジンが落下、もしくは主翼の一部が。何にせよ、機体の制御ができていな……」


今度は後ろでバキバキっという音がした。まるで何かが剥がれるような異様な音だった。
するとガタガタっと機体が震え始めた。


「くそっ」


マルクは自分のシートベルトを荒々しく外して、あたしのシートを後ろに少しずらし、空いた隙間に自分の体をねじ込んできた。


「ちょっとマルク何してるの?!」


「うまく不時着できないかもしれま……うぅっっ……!」


次の瞬間には機体はガタガタと揺れながら急降下し始めた。


「頭を下げて、手は胸の前で交差して!」


そういうとマルクはあたしの頭ごと前からガバっと抱え込んだ。
すっぽりと包まれたあたしは重力に引き寄せられるようにマルクの体に押し付けられた。


「待って!これじゃ、あんたが危ないわ!」


このままじゃ落ちた瞬間、シートベルトをしてないマルクの体は放り出されてしまう。あたしは体を起こしてマルクを引き剥がそうとするんだけど、ジェットコースターにも負けない負荷があたし達の体を下へ下へと引っ張っていってうまくできない。


「足を、固定、しているの、で大丈夫です」


足を固定?
嘘よ、そんな物ある?!
だけどずっと落ち続けていて、あたしはもう声を出せる状態じゃなかった。
あたしは堪らずに目をぎゅっとつぶった。
それからマルクの腕があたしの体を包み込む力が一層増すと、ものすごい衝撃が体を駆け巡った。

 

 


つづく