あたしの頬に触れていた手が後頭部へと回され、シャルルがゆっくりと頬を傾けてきた。
「ん……っ……」
その言葉通りの情熱的なキスとシャルルから漏れる吐息に溶けそうになる。
優しく甘いキスに酔わされていると、名残惜しそうに唇が離れ、シャルルがじっとあたしを見つめた。
シャルルの細い指があたしの唇をゆっくりとなぞる。
「忘れるんだ。今、ここですべて」
絞り出すように言うとシャルルは再び頬を傾けた。
シャルルの思いが痛いほどに伝わってくる。忘れろとあたしに言いながらきっとシャルル自身が忘れたいんだと思う。
そして唇を離すと強くその胸にあたしを抱きしめた。
シャルルのぬくもりに包まれながら、あたしは二度とここから離れないと誓った。
そっと背中に手を回し、シャルルの体を抱きしめた。
「大好きよ、シャルル」
あたしは腕の中から抜け出し、顔を見上げるとシャルルは眩しそうに目を細めた。
「オレもだよ、マリナ。愛してる。この思いは永遠に変わらない」
愛おしさが溢れだし、どちらからともなく唇を寄せた瞬間だった。
ブブブ……。
静かな部屋に響く振動音。
窓際に置かれたサイドテーブルの上でシャルルのスマホが音を立てている。
シャルルはチラッと視線を向けたけど、すぐにあたしに向き直ると頬を傾けた。
シャルルの柔らかな唇が触れ、啄むように食している間も向こうの方では振動音が続いていた。
何か大事な用事なんじゃないかと気になり始めたタイミングでシャルルが唇を離した。
「こんな時間に誰だ」
そう言って窓際へ歩き出した。
シャルルはスマホを手に取って画面を操作すると、放り投げた。
「出なくていいの?」
「大した用じゃないから大丈夫」
「でも、ずっと鳴ってたみたいだし」
「後でかけ直すから心配ないよ」
言いながらシャルルはあたしの隣に再び座った。それでも気になったあたしが放り投げられたスマホを見ていると、シャルルが小さくため息をついた。
「切っておくべきだったな」
壊れたムードを取り戻すかのようにシャルルはあたしの髪に手を差し込み、優しく撫でた。
青灰色の瞳が揺れている。
たぶんこのままだと……。
まだシャワーもしてないし、何より心の準備ができてない。
あたしは咄嗟にテーブルに置いたままのグラスに手を伸ばした。
「もう少し飲んでもいい?」
するとシャルルは自嘲的に笑った。
「すっかり逃げられたようだな」
「何が?」
あたしは知らないフリをしてグラスを空けた。
「いや、こちらの話だ」
あたしがボトルに手を伸ばしかけると、すかさずシャルルがボトルを持って注いでくれた。自分のグラスにも注ぐと空になったボトルをテーブルの端に置いた。
「今夜はこれで終わりでいい?」
これを飲み終えたら……。
シャルルの言葉の意味を変に勘繰ってしまってあたしは恥ずかしくなって頷いた。
「うん」
つづく