きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛のかけらを掴むまで 10

「オレはなぜ一人で逃げずに君を連れて……」

あたしに聞いているというより、自分に問いかけているようだった。
あたしを連れて行くことになった理由は覚えてないんだ。

「マリナ、君は一体……」

この呟きがあたしにはシャルルが救ってくれと言っているように聞こえた。
失くした記憶のもどかしさにシャルルが苦しんでいる。

「友達だからよ。あんたが心配で一人で行かせるなんてできなかったの」

嘘ではなかった。
あの場で和矢と別れて、シャルルについて行ったのは放っておけなかったからだ。
和矢との友情を壊してまであたしと逃げることを選んだことは、シャルルが自分で思い出さない限り、あたしがどんな言葉で言おうともシャルルの心には響かないと思った。

「そうだったのか。君はオレにとって大切な友だったんだな。だが和矢はよくそれを良しとしたな。オレだったら考えられない」

あの時、あたしはシャルルの友達として付いて行くことを選んだ。

「あたしと一緒ならシャルルは何だってできるはずだからって和矢は言ったのよ」

「何だってできる……か」

シャルルはその言葉を噛みしめるように繰り返した。そして何かを思い出したように目を見開いた。

「そうだ!ここにはしばらく戻れないと思って、あの時オレは金庫から希少庫の鍵を持ち出したんだ」

興奮した様子でシャルルは言った。

「思い出したの?!」

「オルレアンだ。そうだ、あの時オレは……」

シャルルは記憶を辿るように、ただ一点を見つめ始めた。
今、シャルルは記憶の旅をしているんだ。
その旅を終えた時、シャルルはすべてを思い出しているかもしれない。
あたしは祈るような思いで見守った。
するとシャルルがパッと顔を上げてあたしを見た。あたしを見つめながら記憶を辿っているんだ。

「間違いない!オレはあそこに鍵を隠した。マリナ、君のおかげだ。ずっとモヤがかかったような感覚だった。もどかしくて、でもオレにはどうすることもできなかった。でもそれもようやく消えた。そうか、オレはあそこへ……」

シャルルの顔を見ているうちにあたしはこの数日間の出来事を思い出していた。
シャルルに忘れられたと知った時は目の前が真っ暗になって立っているのがやっとだった。
このまま思い出してもらえなかったらどうしようってすごく不安だった。
でも、もうそれも終わったんだ。

「シャルル、思い出したのね」

「あぁ、やっと思い出せた。まさかオルレアンに持って行ってたとは思わなかった。あの鍵は初代当主の頃から門外不出と言われているんだ。それを持ち出さなければいけないほどオレも追い込まれていたんだな」

「本当によかったわ」


あたしは心の底からそう思った。
これでやっと気持ちを伝えることができるんだ。


「今みたいに何かがきっかけで君のこともきっと思い出せる気がするよ。オレは君のことも思い出したい。だからもう少しだけそばにいてくれるかい?そうすれば必ず思い出せる」

その言葉を聞いてあたしの頭は真っ白になった。
思い出したのは鍵のことだけ?
全部思い出してくれたのかと思ったのに、シャルルの中にあたしはまだ戻ってきてはいないの?!

「ごめん、オレは大事な友を悲しませてばかりだな。もう少しだけ時間をくれないか?」

気遣うようにシャルルはあたしの頭に手を置いて優しく語りかけた。
シャルルが悪いわけじゃない。
シャルルだってしたくてそうしてるわけじゃない。シャルルも思い出そうとしてくれているのはわかっている。
あたしは溢れそうな涙を慌てて拭った。

「必ず思い出すから、だから泣かないで。君が泣いているのを見てると、なぜか堪らない気持ちになる。オレの必ずは絶対だ。友なら知ってるだろう?」

いつだってシャルルが必ずって言ったことは絶対だった。そんなこと無理だって思うこともシャルルは無理じゃなくしてきた。
その証拠に必ずオレを好きにさせてみせると言われた時、あたしは絶対にそんなことは無理だって思った。
でも今はこんなにもシャルルを好きになっている。
あたしはその言葉を信じようと思った。
コクリと頷くと、シャルルはホッとしたようにあたしを見つめた。

「必ず思い出すよ」

 

つづく