透き通るような声はどこまでも冷たく響いた。慌てたようにフェリックスはあたしから離れた。
「あくまでも介抱です」
凛とした言葉に違和感しかなかった。
これはさっき言ってたフェリックスの作戦なんだ。
あたしはハラハラしながらその様子を見守った。
「オレには抱き合っているようにしか見えなかったがな。女を抱きたいなら他所でやってくれ」
あたしにはシャルルが嫉妬して言ってるようには見えなかった。単にこれは人の家の敷地でするなって怒ってるだけよ。
あたしはフェリックスの進退が心配になった。だって雇われの身なのにこんなにシャルルに口答えして大丈夫なの?
「フェリックス、やめようよ」
こんな作戦で思い出すわけない。
だって今のシャルルが嫉妬するはずがないもの。フェリックスの立場が悪くなるだけだわ。
「マリナは黙ってて」
フェリックスはあたしを宥めるように肩に触れた。
「マリナだと?随分と親密になったようだな、フェリックス。ジルの留守中に友人に手を出すとは君も信用ならないな」
あ、呼び方!
それにシャルルのこの決めつけた言い方にあたしは無性に腹が立った。
「フェリックスを悪く言うのはやめて。友達になったら名前で呼び合ったっていいでしょ?あんたの考え方って狭いわ。そんな風に囲われてしまったらあんたの恋人はさぞかし息苦しいはずだわ」
シャルルは黙ってあたしの言葉を聞いていた。
「何度も目眩を起こすようなら君の介抱ではなく、医者に診せた方がいい」
シャルルはそれだけ言い残すと踵を返して行ってしまった。
頭にきて思わず言っちゃったけど、あたしここにいて大丈夫かしら。
「すごいよ、マリナ!」
心配するあたしとは逆にフェリックスは何だか嬉しそう。
「何がよ?」
「だってシャルル様がマリナを心配してたじゃないか」
「そうだっけ?でも怒って行っちゃったじゃない」
「医者に診せた方がいいって。あれはシャルル様の優しさだよ。やっぱり俺の作戦が功を奏したんだ」
「え、あれは嫌味でしょ」
「優しさだよ。染みついているんじゃないかな。マリナさんを心配する気持ちとかそういのがシャルル様の中には絶対に残っているんだよ」
フェリックスって案外鈍いのかしら。
自分に都合のいい解釈のような気がしてならないのはあたしだけ?
その答えがわかったのは、あたしが部屋に戻ってからのことになった。
買い物してきた物とかを片付けられてないか心配しながらあたしはゲストルームに戻った。
だけど部屋はそのままになっていた。
少しホッとして一人掛けソファに座るとテーブルの上に一通の手紙を見つけた。
つづく