きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

時を越える夢 8

封書にはさらに白い封書が入っていた。表には「Charles et Michel」と書いてある。
書体に見覚えがあった。
幾千枚の封書の中に埋もれても、目立つようにわざとミシェルの名を入れてきたのだろう。
そこまでして何を知らせてきた?
手紙に目を通していくうちに頭の中で幾つもの仮説が生まれる。
そしてミシェルの影がチラつく。
ポールに手紙を運ばせたのがレンということは明らかにミシェルが一枚かんでいる。
だが和矢とミシェルに接点があるとは思えない。つまりミシェルはこの手紙を偶然見つけ、絶妙なタイミングでオレの元へ届けさせた。
つまり考えてる時間はないということだ。
10時に羽田か。航空会社のページをすぐさま検索し、最良の便を押さえた。
だがこれだとすぐにパリに戻ったとしても誕生日パーティーには確実に間に合わない。夜が明けて急遽パーティーを中止にしたとしても招待客がオレの個人的な理由で納得するかだ。
その損失は計り知れない。
なんせ政界、財界の著名人をここぞとばかりに呼んでいる。すべてはモザンビークへの援助活動のためだったが、ここへ来て身動きが取れなくなるとはな。
そうか。
アルディ家のメインコンピューターにアクセスし、監視カメラの様子をモニターに映した。思った通りミシェルがこちらに向かって手を振っている。

***

「安心しろ。この部屋は監視外だ」

警戒しながらミシェルはオレの部屋の中を見回している。ぶらぶらと歩きながらミシェルは条件を口にし始めた。

「オレの望みはアルディの戸籍への復活とロワールの館での自由な生活。期限は一週間」

ミシェルの望みはどれも親族会議にかけなければ進められないものばかりだ。
期限は一週間か。
しかし会議の結果を待っている時間はオレにはない。明日の朝にはここを発たなければ間に合わないからだ。
逆にミシェルには時間的な余裕がある。
どう考えてもこの状況は時間のないオレには不利だ。

「どうした?それぐらい当主権限の発動で押し切れるだろ?それともモザンビークの件も控えているからこのタイミングでは発動したくないのか?」

たしかに押し切れるが、頻繁に使いたくはない。ましてやモザンビークの件はアルディ家の資産を運転資金に回す話だ。


「そこまでわかっていてここへ来たならミシェル、お前には何か考えがあるんだろう?」

ミシェルは大袈裟に両手の平を上に向けると、肩の位置に上げて降参のポーズをして見せる。


「いや、さっぱりだ」

そんなはずあるか。
ミシェルにはオレに自分の条件を飲ませる必要がある。だがオレにそれを飲む意思があっても、どれもこの場ですぐにできることではない。手続きが伴うこともわかっていてこの態度ということは……。
オレはデスクの上のパソコンをミシェルの方へと向けた。

「メインコンピューターにアクセス中だ。もちろんパスコードも外してある」

ミシェルはデスクに斜めに腰掛けると、迷わず監視システム画面へ入る。自分への監視目的の物を次々と解除していく。次にGPS管理システムへ繋ぎ、ミシェルには秘密裏に埋め込んだGPS受信システムも見つけ出し、電源をオフにした。
やはり気づいていたか。

「あとは無いな?」

「あぁ、それでお前は完全に監視対象外だ。ところで解決策は思いついたのか?」

ミシェルはニヤリと笑みを浮かべた。

「もちろんだ」

 


つづく