ここは当主執務室、オレはシュミレーションを始める。
相手はシャルルだからな。小さなミスも許されない。
本革張りの大きなアルディ家当主のための黒く重厚な椅子。
この椅子に何の興味もないのはここへ来てから今に至るまで変わる事はない。
マリナとロワールへ出かけた。シャルルの反対は想定内であり、聞く気もなかった。彼女は光の住人になりたいと言っていた。何かのきっかけになればといいと色々な場所へと連れ出し一緒に過ごしているうちに彼女へとだんだん惹かれて始めていった。
今まで世間から存在を隠されてきた人生だ。当然人を好きになる事もなければ興味もなかった。
マリナに出会うまでは…。
オレはある計画を立て実行に移す準備を進めていた。数日間、マリナと過ごし思い出を作る。オレの思い出のロワールの館へマリナをどうしても連れて行きたかった。相変わらず封鎖され中に入る事は叶わなかったがいつ来ても懐かしい佇まいと風の香り。そんな事を考えていた時にマリナがオレに抱きついてきた。
いや、小さな身体で抱きしめてくれた。
人からの抱擁は久しく少し戸惑いを感じ、喜びへと変化していった。
ディナーを終えるとマリナは部屋まで着いて来た。何か言いたそうにしているのはすぐに分かったが2人きりで部屋にいるのはキツイな…。
オレもただの男だと思い知らされた。
シャルルに心配を掛けた事をひどく後悔している様子だった。オレを庇って嘘までついた彼女が愛おしい。
オレはマリナにキスをした。
最後のキス…
もうこれで十分だ。
オレはその夜ジルの部屋を訪れて計画を打ち明けた。ジルは驚きを隠せない様子でしばらく考えて込んでいた。
「ミシェル、それはシャルルを騙すと言うことですか?!
そんな事が許されるとは思えません。
それに私はシャルルを出し抜くなどと考えた事もないですわ。それなのに…」
「全てはマリナのためだ。」
オレが語気を荒げると彼女は黙った。
ジルは最初は反対していたし協力は出来ないと言っていたがこちら側に落とすのにそれほど時間は掛からなかった。
ジルがオレの思い通りに動いてくれれば計画はほぼ完成だった。あとは実行するだけだ。
マリナはシャルルが好きなはずだから…
アイツの部屋から姿を現したマリナ。
なんてことだ…。
鋭い痛みが胸を貫き、激しい憎悪と嫉妬にオレの全ての感覚が奪われていくのを抑えるだけで精一杯だった。
それでも朝まで一緒だったとは限らない。彼女に声を掛けてみたが動揺しているのは明らかだった。
まさかミシェルと朝を迎えたのか…。
そこへ執事が慌ただしく駆け寄りオレを呼ぶアイツの言葉を告げに来た。
オレを呼び寄せるなど気に入らないな。
アルディ家当主の執務室へと向かいながら思いを巡らせていた。
一体何があったのか…。
ノックする必要性もない。オレの部屋だからだ。久しぶりに入る部屋だが何も変わりはない。
ただ、ミシェルとジルが居る事の違和感は感じていた。
ミシェルはオレに視線をぶつけると呼び寄せた理由を話し出した。
当主不信任案可決?
何の事だ…?
まさか…ミシェルのやつ。
それにジルまで…。なんて乱暴な事を。
マリナに何かあったらどうするつもりなんだっ!
しかし、これは良いきっかけになるかもしれない。いや、オレと同等以上のミシェルが計画した事だ。
一筋の光ほどは望みがあるかもしれない。
乗ってみるのも手か。
つづく