きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は導かれてパッサカリア 11

なぜ、マリナがここにいるのか。

子供達が話していたルパートのいい人というのは、おそらくマリナで間違いないだろう。これはルパートにとっては大きな誤算だったはずだ。用心に用心を重ねて留守にまでしていたにもかかわらず、まさか使用人達の間でそんな噂になってしまっているとは思いもしていないはずだ。
まさかオレがここへ来るなんてこと考えてもいなかったの……だ、ろ……。
いや、待てよ。
そこまで読んでルパートは留守にしていたのか?!
なぜマリナがここへいるのか……じゃない。オレが来るからマリナはいたのか?!

この別邸にゲストルームは一つしかない。来客自体が少ないこともあるが、目の前は本邸だ。必要なら部屋はいくつでもある、ということなんだろう。
螺旋階段を駆け上がり、まっすぐに伸びた廊下を最奥へと進む。突き当たりまで行くと左右の扉が見事なシンメトリーとなっている部屋が向かい合っている。
左が今はルパートの私室、そして右がゲストルームだ。
やはり昔と変わっていない。
部屋の前に立ち、一呼吸した。
もう二度と会うことはないと思っていた。まさかこんな形で再会することになるとは考えてもいなかった。
ゆっくりと二回、ノックをした。
するとすぐにドアノブのレバーが下がり、ドアが内側へと小さく開いた。
ふわりと風に乗って記憶の中の懐かしい香りがオレの鼻先を通り過ぎていく。
オレの鼓動は一気に高まる。

「はい」

「……!!」

思わず息を飲んだ。
ドアの隙間からこちらの様子をうかがうのは見知らぬ男だった。
どういうことだ。
今日の別邸への来客報告は一件も聞いていない。数日前から滞在しているということか?
いや、そんな報告もオレの所には上がってきていない。つまりこの男は本邸への報告に上がるような公式な訪問者ではないということだ。
オレの予想通りならマリナは別邸内に必ずいる。それもルパートのいい人として大切に扱われているはずだ。
当然ゲストルームにいると思ったんだが、それ以外の部屋となると使用人棟しかない。だがそれは考えにくい。
オレはわずかに開いたドアをこじ開け、男を押し退けるように強引に部屋の中に入った。

「ちょ、ちょっと、いきなり何ですか?!」

日本語?!
それにこの男、オレに押された反動で体勢を崩したかのように見せてはいたが、あれは演技だ。あの角度で押されたら普通の人間なら後方へバランスを崩して倒れる。
だがこの男はさっと身を引き、突発的なオレの動きに合わせて反応した。
こいつ何者だ?!
素早く辺りを見回すが、中にはこの男しかいない。
こいつは見張り役か?
いや、この場合その役目は男にするべきじゃないのはルパートもわかっているはずだ。
まさかマリナのっ?!
いや、それなら和矢はどうしたんだ?
パズルのピースを拾い集めるような気分になる。
そういえば、玄関部分の改築をする際に屋敷の設計図は見たが、この部屋の出入り口は一つだけだった。
もし隠し通路のような物があれば話は別だが。そういった物はまず設計図には載せない。外部へ流出する危険が増すだけだからだ。
かといって建物の構造上、階下や左右へ避難路を確保するのも無理となると、残る可能性は……。
見上げると天井には切り貼りされたような開口部があった。天井裏へ続く階段が収納されてでもいるのだろう。
ビンゴか。

男に向き直り、オレは一歩ずつ近づく。
男はその目に警戒の色を濃くした。

「きさまがマリナの相手か?!」

「マリナって誰です?僕はここの主人と知り合いでパリに来た時はいつもお世話になっているだけです」

瞳孔に変化は見られない。
やはりこの男、何かしらの特殊訓練を受けているな。

「ほう、シラを切るつもりか。ならば私も君を招待しようじゃないか。わがアルディ家が誇る華麗の館へ。そこでじっくりと話を聞いてやる!」

男が無意識に喉を鳴らしたのをオレは見逃さなかった。
華麗の館という言葉に反応したのだろう。つまりそれがどういう意味か理解しているということだ。
こいつは確実にルパートの飼い犬だ。

「私だ。ルパート邸へ車を二台用意しろ。それから華麗の館の準備も頼む。40分後には始めると伝えてくれ」

スマホで指示を出しながら男の様子を伺っていると、天井部分から機械音が聞こえてきた。見上げればゆっくりと天井から階段が降りてきた。

「だめよ、梶さん。あんな館について行ったらあんたじゃ、死んじゃうわ」

その懐かしい姿にオレの目は釘付けとなった。

 


つづく