きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

愛は導かれてパッサカリア 2

半年ほど前からあたしはスーパーでアルバイトを始めた。
担当は手作りパンの売り子さん。
一緒に働く主婦の人達はみんな気さくな人達で、たまに前日の売れ残ったパンをくれるの。
おかげで慣れないレジ打ちの仕事も、いくつもある複雑でお洒落なパンの名前も覚えられた。
まんがの仕事はアシスタントのバイトしか回ってこなくなっていた。
しかも最近はデジタルソフトを使う先生が増えてきて、アナログなあたしは取り残され始めていた。
かといってあたしにはパソコンを買うお金も使いこなすスキルもない。それで仕方なくまんが以外の仕事も始めた。


スーパーからの帰り道、公園の入り口で自然と足が止まった。
今日はいつもよりも帰りが遅くて、辺りはだいぶ暗い。
あたしは今回初めて参加したんだけど、うちのスーパーでは半年に一回社員ミーティングというのがあって、売上の目標とか各部門の新商品の発表をみんなで共有する集まりがある。
今日は仕事の後にそれがあって、遅くなってしまった。
夜道を歩くのが怖いというよりは、ここの公園にあるゾウの遊具があたしは苦手だった。高さが2メートルほどあって長い鼻が滑り台で背中にも乗れるようになってるんだけど、前に梶さんからここのゾウの噂話を聞いてからは見ないようにしている。
その噂話というのが、夜になるとゾウが歩き回るらしいというものだった。
元は水色だった塗装は所々はげていて、下地の赤色が見え隠れしている。
それがまた流れ出した血のように見えて、まるで傷を負ったゾウにしか見えず、その目には憎悪が浮かんでいるようにさえ見える。
そして今もそのゾウはしっかりとこちらを見ている。
なんでこういう作り物の視線って通り過ぎ
た後もずっとこちらを見ているように見えるんだろう。
立ち止まるあたしの足元を生温かい風がすーっと吹き抜けていき、ぞわりと鳥肌が立った。
ダメだわ。
あたしはどうもこの手の話が苦手。少し遠まわりにはなるけど、ぐるっと回って帰った方がよさそうね。
たしか左の道は長い階段があった気がする。世田谷区にある130段以上あるものに比べたらそんなに多くはないけど、周囲を鬱蒼とした森に囲まれてて、昼間なら趣があっていいかもしれないけど夜は勘弁だわ。
迷わずに右へと向かう。
こっちは酒屋や本屋などの商店がいくつかと古いアパートがあるぐらいで薄暗くて人通りも少ないけど向こうよりいいわ。
ゆるやかなカーブを曲がるとコンビニが見えてきた。
ふとガラス越しにこっちを向いて雑誌コーナーで立ち読みしている人達の姿を見てホッとする。
化学の進んだ現代でオカルト話なんてそうそうないわよね。
よしっ、この先を曲がればアパートまではすぐだわ。あたしは気持ちを奮い立たせて歩き出した。
ところがコンビニを過ぎた辺りから、今度は後ろからコツコツと靴音が聞こえ始めた。
たまたま同じ方向ってだけだろうけど、一度気になると、もうあたしは全身が耳になったしまったような気分になった。
でもわざわざ振り返って、確かめるのも気まずいし、立ち止まって追い越してもらうのも有りなんだろうけど、すれ違う瞬間がものすごく怖いわ。
そこであたしは早歩きをしてみることにした。これなら怖くもないし、上手くすれば距離もとれる。
スタスタと早歩きをしながら、意識を耳に集中させてみたら、なんと後ろの靴音も同じ速さで付いて来たのよ!
ひぇー!!
なにっ、痴漢っ?!
付けられていることはわかったけど、その先までは考えてなかった。
コンビニはさっき通り過ぎたばかりだし、辺りには他にお店とか人影もない。
あたしは息をのみ、どうしたらいいかを必死で考えた。
ちょうどこの先に十字路がある。
あの手前で一気に走り出して、近所の家に助けを求めるってどうよ?
さすがに走って逃げ切るにはアパートまでは距離があり過ぎてあたしの足じゃ、きっと追いつかれてしまう。
ここは一か八かやるしかない。
あたしはドキドキしながら何も気づいてないフリをして、同じ速さで歩くことだけに集中した。
そして十字路に差しかかった瞬間、あたしは一気に走り出した。
後ろで地面を蹴るような音が聞こえてきた。やっぱり付けて来てたんだ。
だけど勢いよく路地を曲がった先には逃げ込むような家やお店はなく、何かを建設中なのか、安全第一と書かれた銀の大きな鉄板が道路に面してずらっと並べられていた。
うわっ、どうしようっ?!
靴音は徐々に大きくなり、近づいてくる。
走りながら辺りを見渡すけど、身を隠せるような場所はない。
その時、一台の車が後ろから近づいてきてあたしの横でピタリと止まり、男が二人、降りてきた。

 

つづく