きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

シャルルBD2021 愛と運命の航路

HND→CDG   0:50→9:40

飛行時間は約12時間。
安定飛行に入り、シートベルト着用サインが消えると、ほとんどの乗客が静かに眠り始めた。
この便は直行便じゃなくてフランクフルトを経由する便だったから実際には16時間ほどかかる。
チケット代はその分、安く済ませることができるけど、深夜の出発はあまり人気がないのか、あちこちに空席が目立つ。
寝る前にトイレだけは済ませておこうと思ってあたしは立ち上がり、通路側に座っていた中年の男性に「pardon」と声をかけた。
男性は読んでいた本から視線を上げるとブロンドの髪をかき上げながら「OK、OK」と言ってあたしが通りやすいようにわざわざ立ち上がって通路にまで出てくれた。
なんて親切な人なんだろう。
パリ行きだからやっぱりフランス人なのかしら。ドイツ人って可能性もあるけどフランス語のお礼の言葉しか知らないから、とりあえず「メルシー」と言ってみる。
すると男性は群青色の瞳で微笑みながら「ドゥリアン」と言って席につき、再び本を開いた。
やっぱりフランスの人だったみたい。
あたしはペコリとお辞儀をしてトイレへと向かった。
隣の人がいい人でよかった。
あたしは三列シートの窓側の席で、隣は空席だっだからエコノミーでも十分快適なんだけど心配だったのは自分のタイミングでトイレに行けないってことだった。
それこそ通路側の人が寝てしまったら起きるまで我慢するしかないんだもの。
でもこれで少し安心した。

トイレへ行ってみると思ったよりも長い列ができていた。
みんな考えることは一緒なのね。
15分ほどで席に戻ってみると、どうも男性の様子がおかしい。
うっすらと開けられた唇から喘ぐような息がもれ、苦しげに肩を上下に揺らしている。

「大丈夫ですかっ?!」

慌てて男性の顔をのぞき込むと、額にじんわりと汗が滲んでいた。
あたしの声に男性は固く閉じていた目をわずかに開くと、シャツの胸の辺りをぎゅっと掴んだ。
その瞬間、あたしはハッとなった。
これは、発作だ。
胸を抑えて苦しむ姿は薫が発作を起こした時と同じだった。その度に薫は常備してるニトロを飲んでいた。
きっとこの人も薬を持っているはずだわ!

「薬は?ニトロはどこ?!持ってるんでしょっ?」

「……pne、um……」 
プ、ヌ……?

ダメだわ。言葉が通じない。
その時、男性が上着のポケットを触るような素振りを見せた。
ポケットの中なのね?!
あたしは急いで男性のポケットに手を突っ込んだ。
だけど何も入っていない!
もしかしたら反対側かもしれないと思って男性の体を座席の背もたれに寄り掛からせて、あたしは手を伸ばして反対のポケットに手を入れた。
何かある!あたしはそれを引っ張り出すと黒革の財布だった。
もしかしてこの中?
あちこち開いて見たけど薬らしきものはどこにも見当たらない。
え、ないわよ?!

「おい、何をしてるんだ?!」

ハッとして振り返ると30代ぐらいの日本人男性がすぐ後ろに立っていた。
その人はあたしが手にしている財布に目をやった。

「これはちがうの!この人の具合が……」
「誰か!CAを呼んで来てくれ。この女、泥棒だ」

あちこちで寝ていた乗客たちが目を覚まし、何事かとこちらを見ている。

「どうされましたかっ?!」

女性CAさんが現れ、あたしと日本人男性を交互に見た。

「この女がどさくさに紛れてその人の財布を盗んでるのを見たんだ」
「待って!あたしは薬を探してただけよ!」


あたし達のすぐ横で苦しそうにしている男性を見たCAさんはすぐにインカムで応援を呼んだ。
そこへ男性乗務員が駆けつけて来た時には辺りは騒然となっていた。

「お客様、いかがされましたか?!」

男性乗務員は苦しそうにしている男性の横に膝をつき、声をかける。
でも男性は苦しげに胸を押さえるだけで話をできる状態じゃない。

「こちら七瀬。急病人発生。C36ドクターコールを要請する」

七瀬と名乗った男性乗務員はインカムでどこかへ連絡を終えると、あたしの手の中の財布にチラッと視線を向け、あたしを見た。

「お客様、そちらは?」

七瀬さんはあくまでも丁寧な言葉使いではあるけど、その視線は刃物のように鋭かった。

「俺は見てたぞ。この女がこの人の上着のポケットから財布を抜き取るところを、この目ではっきりとな!」


あたしを泥棒だと決めつける男は聞かれてもいないのに出しゃばってきた。
あんたには聞いてないのよ。少し黙っててちょうだい!


「違うのよ。この人が自分で薬はポケットにあるって言うから、あたしはそれを探してあげただけよ!」


「では詳しい話は後ほどうかがいます」


ーー本日は日本○○航空をご利用……お客様の中にお医者様がいらっしゃいましたらお近くのCAへ声かけ下さいますようお願い致しますーーThis is a Air Japa……ーー


ちょうどその時、機内アナウンスが流れてきた。実際に聞くのは初めてだったので気を取られいると七瀬さんに「どうぞこちらへ」と強い口調で言われてしまった。
ここは七瀬さんの言う通り、この男のいない所できちんと事情を説明する方が早そうね。あたしが頷くのを見届けると次に七瀬さんは男へと向き直る。


「ご協力ありがとうございました。夜もだいぶ更けてまいりました。あとは私共にお任せ下さい」


男はまだ言い足りなそうな雰囲気だったけど、七瀬さんの言葉とすでに日常を取り戻している他の乗客たちの空気に飲まれたのか、それ以上は何も言わずに静かに自分の席へと戻って行った。


「では、こちらへ」


七瀬さんは機内後方を指し示すと、歩き出した。あたしもあとに続こうとした時だった。


「行く必要はない」


聞き覚えのある声に振り返ると、見事なプラチナブロンドをさらりと揺らしながら近づいてくる懐かしい姿があった。


「シャルル……どうして、あんたがここに?」


「説明はあとだ」


そういうとシャルルは徐に苦しそうにしている男性のネクタイを緩め、シャツのボタンを外すと男性の胸に耳をあてた。


「お客様?!何をされるのですか」


女性のCAさんが慌てる中、シャルルは冷たい視線を彼女に向けた。


「オペを終えたばかりで疲れてはいたのだが、ドクターコールを聞きつけ、国際免許を持つ医者として駆けつけてみただけだ。必要ないなら私は失礼する。他に頼むことだな。詳しく調べてみないとはっきりとしたことは言えないが、見たところおそらく彼は中等度気胸だろう。すぐにでも胸腔ドレナージを行った方がいい」


淡々と説明をするシャルルの言葉にその場が凍りつく。


「それから彼女は私が引き取らせてもらう。彼が適切な治療を受け、回復すれば彼女の話が間違っていないことを証明してくれるだろう。彼女は患者の様子から心臓発作だと認識し、常用薬を探していたまでのことだ。それでもまだ彼女を疑うのであれば、このシャルル・ドゥ・アルディがフランス旧公爵アルディ家当主として日本政府に抗議するまでだ」


この一言で全てが終わったのは言うまでもない。


「機内用の救急バックには何が入っている?すぐに持って来い。それから麻酔はあるのか?消毒液はさすがにないわけないか」


処置の準備を確認しながらシャルルは器具の心配をする。


「肝心のチェストチューブはおそらく機内にはないぞ。シャルル、どうするんだ?」


この声は!?
両手を頭の後ろで組みながら気怠げに歩いてくるのはミシェルだった。
シャルルだけでも人目を引くっていうのに、同じ顔のしかも真っ白なリボンブラウスなんて着たミシェルまで現れたもんだから眠りかけていた乗客たちもすっかり目を覚まし、誰もがその美しい共演に息をのんだ。
小菅で別れて5年。
シャルルに恋人がいるかもしれないと何度も挫けそうになった。今さら、そんな言葉も何度も夢に見た。
それこそ結婚している可能性だって考えたわ。
けど……。
作業を続けるシャルルをあたしは見上げた。


「ねぇ、シャルル……?もし、まだあんたの中にあたしの居場所があるなら、あたし、あんたと生きていきたい。あの時はごめん。でもやっぱりあたし、シャルルのことが好き」


「マリナ……っ!!」


その瞬間、あたしは息もできないほど強く抱きしめられた。


「おいシャルル、早くこの患者、見てやれよ」

 

 

 


fin


***


みなさん、こんばんは!


そしてシャルル〜誕生日おめでとう❤️
今回はさら〜っと書いたので前半と後半の空気感がガラリと変わりますが、みなさんもさらりと読んでもらえればと思います。


私、ずっと前からこのドクターコール!「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」を書きたかったんですよね😊
やっと書けた(笑)
そして政府をも動かすレベルのアルディ家の権力w
ミシェルとの仲もいい関係もさりげなく織り込みつつ、マリナちゃんがシャルルの元へと帰るというね。
やっぱりシャルルが好き❤️
シャルルへのBD創作はこれに尽きますよね😍