「こんな雨の中、何してるんだっ?!」
振り返るとそこには戸惑いと苛立ちの色を纏った黒い瞳があたしを真っ直ぐに見つめていた。
「高瀬さんっ?!」
そうだ……シャルルの事で頭がいっぱいになって高瀬さんに待つように言われていたのも忘れて飛び出して来ちゃったんだ。
「待っててって言ったのにこんな雨の中を飛び出して行くなんてどうしたの?」
高瀬さんは傘を差し出すと、食い入るようにあたしを見つめた。
「ごめんなさい。」
あたしは俯きながら雨とも涙とも言えないものを手で拭った。
「マリナちゃん、泣いてるの?」
今さっき、あたしを好きだと言ってくれた高瀬さんにまだちゃんと自分の気持ちを話していないこの状況でシャルルの話をする事をあたしは躊躇っていた。
どうしよう……。
勢いで飛び出してきたけど高瀬さんに心配をかけてしまった自分の行動をとても後悔した。
でも真剣に想いを告げてくれた高瀬さんには正直に話すべきなのかもしれない。
もしあたしが高瀬さんの立場だったら、ごまかされたり隠されたりする方がずっといやだと思う。
あたしは気持ちを落ち着かせて正直な気持ちを話した。
「高瀬さん、実はあたし、好きな人がいて、その人がさっきここのホテルに居たんです。とても綺麗な女の人とエレベーターに乗って行くところを見ました。それであたし……」
それ以上は言葉にできなかった。
瞬間、高瀬さんの腕がすっと伸びて息も出来ないほどあたしは強く抱きしめられていた。
「もう、泣かないで。
そんな風に君に泣かれたら僕は自分の想いを抑えられなくなるよ。
僕じゃ……だめか?僕なら君をこんなふうに泣かせたりはしない」
高瀬さんの意外に逞しい胸に抱きしめられ震える心に温もりと優しさが伝わってくる。差し出された傘は足元に横たわり夏を知らせる雨が二人に降り注ぐ。
あたしは温もりの中で目を閉じるとさっきのシャルルと女の人の姿が瞼には浮かんだ。忘れてしまいたい。こんなに辛い想いをするなら忘れてしまいたい。
「いつかマリナちゃんがその人を忘れて僕を好きになってくれるまで僕は待っているよ。だから今は僕に気持ちがなくても二人で歩き出さないか?」
心に差し込むような優しい声で高瀬さんは語りかけるように耳元でつぶやいた。
つづく
******************
みなさん、こんにちわ!
「シャルルじゃないの~っっ?!」
って声が何度も聞こえてきました(^_^;)
出来れば私も書きたかった「青灰色の瞳」って。←なら書けって?w