きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

忘れられないもの20

白い封筒は表面がデコボコとしていてよくよく見てみればバラの花があしらってあった。あたしは息をのみ、綺麗に糊付けされたそれを開けた。中には一枚の手紙と折り鶴が入っていた。

「これっっ…!」

あたしはそれを確かめるように折り鶴を開いてみた。そこにはかつてのあたしの願いが書かれてあった。
それはたしかにあたしがアデリーヌの家で作った折り鶴だった。

「シャルルはここに来たんだっ……」

心臓がドクンドクンと脈を打ち、逸る気持ちに追い立てられるようにあたしは同封されていた手紙を開いた。



「久しぶりだね、マリナ。
オレはやっと君たちと向き合えることが出来るような気がして日本へ来た。
君の幸せを見届けたらすぐに帰るつもりでいた。
だが君がここで変わらずに暮らしている事を知った。
今、君が幸せならこの手紙は捨ててしまってくれ。
オレは明日の朝、日本を発つ。
もしも幸せだと感じていないのなら…」


全てを読み終えたあたしは涙で滲んだその手紙と折り鶴を握りしめて家を飛び出した。
シャルルが自分の事を気にかけていてくれた事が嬉しくて涙が止まらない。
あたしに幸せになれといって小菅で別れた後もシャルルはずっとあたしを忘れずにいてくれてたのかもしれない。
あの時、和矢を選んだあたしを許してくれるの?あたしはシャルルを一人で行かせてしまった事をずっと後悔していた。
あたしは和矢を選んだことで、シャルルとずっと一緒にいると言った言葉もシャルルが好きだと言った言葉も全部ウソにしてしまった。
和矢と再会した時、懐かしさからやっぱり和矢が好きだと思った。だけどそうじゃなかったと気付くのにそれほど時間はかからなかった。
次第にシャルルを恋しく想う気持ちは膨らんでいって和矢と一緒にいる時も苦しくて仕方がなかった。
あたしの心変わりに気付いた和矢から別れようと言われたのは一年も経たない冬のことだった。
和矢はあたしの本当の気持ちにいち早く気づいていたのかもしれない。何も言い出せずにいたあたしにさよならを言ってくれた。和矢に対してもシャルルに対しても申し訳なくてあたしは何もできずにあれから八年も経ってしまった。
だけど今、シャルルがすぐそばにいる。
もう二度と後悔はしたくない。
ちゃんとあの時の事を謝ってやり直したい。ずっと好きだったとシャルルにちゃんと伝えようと心に決めた。

あたしは駅を目指してひたすら走った。早く、早く……。気持ちは焦るのに足は思うように動いてくれない。
もどかしい気持ちで走り続け、やっと駅が見えてきた。改札口を出る人の流れが見える。ちょうど電車が行ってしまったところだった。ベンチに座ってシャルルの手紙を何度も読み返しながら電車の到着を今か今かと待った。
しばらくしてホームに滑り込んできた電車に飛び乗った。結局あたしがホテルに着いたのは夜の十一時を過ぎていた。
ロビーには人気もなく閑散としていた。
フロントに駆け寄り、シャルルのサインが入ったメッセージカードを見せた。
そこにはあたしが訪ねてきたら部屋に案内するようにと書かれていた。
そのカードを受け取ったホテルマンの表情がすっと変わり、慌てた様子で「少々お待ちくださいませ」と言って奥のドアへと消えていった。
待たされている時間がとても長く感じる。もうすぐシャルルに会える。そう思うだけで気持ちが高ぶった。
しばらくするとさっきのホテルマンが戻ってきた。

「お待たせして申し訳ございません。アルディ様は先ほどチェックアウトを済ませられて空港に向かわれたそうです」


「どうして……?」


あたしは呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。






つづく