忘れられないもの7
手術から十日が経ちオレはアデリーヌと共にオルレアン.総合病院をあとにした。
車は静かに門をくぐり玄関前に止まった。アデリーヌはゆっくりと車から降り立ち、玄関先でふと足を止めると館を見上げて大きく息を吸った。その姿はまるでずっと抱えていた不安から解き放たれている瞬間のようにも見えた。
「帰って来れたわ。」
アデリーヌはオレを振り返ってそう言った。
「オレが執刀したんだから当たり前だ。」
「相変わらずね。」
クスッと笑った彼女の笑顔がとても印象的だった。
オレはアデリーヌの寝室で彼女に横になるように言って計測器で最終チェックを行った。
「このまま投薬を続けながら様子を見ることにする。動脈血酸素飽和度の測定結果の数値も思った通り完璧だ。あとは体力が回復すれば以前と変わらない生活が送れるようになる。」
オレは説明をしながらパルスオキシメーターを彼女の指先から取り外していく。
「あなたにこうして家まで来てもらって直々に診てもらえるなんてもったいないぐらいだわ。」
「これぐらい何てことはない。君はオレの恩人だからね。」
横になっていた彼女は体を起こすとクッションを背にあててからかうように言った。
「確かにあの時は血だらけのあなたを見てもうダメかと思ったわ。だけどまさか自分で手術をしちゃうなんて本当にシャルルって利かん気よね。」
「仕方がない。オレ以上の医者はこの世に存在しないからね。」
「そういうところはあの人にそっくりね。」
どこか懐かしむような、そんな表情をしていた。オレの中に父の姿を見たのだろう。
変わらぬ想いか…。
「今でも父を?」
「ええ、もちろん。あんなにも愛した人を忘れられるわけないわ。たぶん、一生ね。」
つづく