きらのブログ

まんが家マリナシリーズの二次創作サイトです。

忘れられないもの2

「母を助けてください。」
 
少年の言葉にオレは引き戻されたように足を止めた。
母という言葉がオレにそうさせたのかもしれない。すると少年はさらに言葉を続けた。

「母の病気を治して下さいっ!」

オレが医者だと知っていてここまで来たのか?
 
「それなら病院に行くんだな。」
 
そう言うと警備員たちが少年の両腕を掴み、連れ出そうとした。それでもなお少年は必死にこちらに顔を向けてオレに訴えた。
 
「もう病院には行きました。原発性肺腫瘍と診断されて手術を受けるなら優秀な医師を選ぶように言われました。」
 
エコールに通う程度の子供にしては実に明瞭な説明だ。

「それをオレに頼みに来たというわけか?」
 
直接交渉に来るとはレアなケースではあるがこれまでも国内外から依頼を受けて執刀したことはいくつもある。
だがそれはこちらの目的を達成する手段や条件として利用できると判断した場合だけだ。
オレはボランティアではない。
気の毒だとは思うがそうそう付き合ってはいられない。
原発性は進行が早いため早急な手術が必要なのだろう。しかしある程度の経験を積んだ外科医であれば難しいというものでもない。
 
「オレには見知らぬ君たちを救う理由がない。」
 
オレの言葉に少年は唇をぎゅっと噛み、その瞳に凛とした光を放った。
 
「僕がオクトーブルだと言ってもダメですか?」
 
そう言った少年の言葉にオレは息を飲んだ。
 
「その子を離せ。」


そう言って近づくオレに警備員たちは少年から手を離すと一歩下がりその場で控えた。
あれから八年が経っていた。
真っ直ぐにオレを見つめる少年の灰色の瞳は確かにあの時の赤ん坊だった。

「マリウスかっ?!」

「はい。」

マリウス・オクトーブルだ。
かつて当主の資格喪失を理由に孤島への送致が決定し、オレは当主復権を狙いアルディ家から逃走した。
その時にオレが身を寄せたのが故父の恋人であったマリウスの母、アデリーヌの元だった。

「マリウス、詳しく話せ。」

生まれた家を追われ、何もかも奪われたオレを彼女は守ってくれた。
マリウスを人質に取られミシェルの指示に従うしかなかったとしても彼女は傷ついたオレを迎え入れてくれた。
何としても彼女を救わなければならない。そしてマリウスから母を奪うような事があってはいけない。



******************
ご訪問ありがとうございます。
この後も更新は週一ペースになると思います。