少し前を歩くシャルルの後ろを私は黙って歩いていた。私の右手を握るシャルルの左手はいつもより少し冷たかった。
ーそんなにミシェルが気になるかー
さっきのシャルルの言葉が頭から離れない。私はお屋敷を飛び出していったミシェルが心配だった。あの写真さえ撮られてなかったら強制移送の話が出ることもなかったし、出て行く事もなかったはずだった。しかも雨まで降り始めて一体ミシェルは一人でどうするんだろうって私はそればかり気になっていたの。
でも…私を心配して雨の中迎えに来てくれたシャルルにミシェルを探してほしいなんて言うべきじゃなかった。
絹糸のような髪から零れ落ちる雨粒がシャルルの肩を湿らせていた。そんな後ろ姿を見ていると胸の奥が詰まる思いだった。
シャルルは部屋の前で一旦足を止めて扉を開けると私に先に入るように促した。
さりげなく私の背中に手を添えてまるでエスコートするようだった。
私が誘われるように部屋に入るとシャルルの手は役目を終えたというようにすっと私から離れていった。
まるでそれは私への不信の表れのようで居ても立ってもいられず私は振り返りその手を掴んだ。
シャルルは息を飲み、食い入るように私を見つめた。
「シャルル…さっきはごめんなさい。
私はシャルルの優しさに甘えていたの。
あんたならミシェルの事をどうにかしてくれるんじゃないかって思ってしまったの。だけど私が気にする事ではないって今ならわかる。本当に自分が嫌になる。
私は…シャルルが好きで、本当に大好きで、とっても大切なのに…。
本当は傷つけたくないって思ってるのに、さっきもあんたに嫌な思いをさせてしまったわ。
ここに来るまでの間ずっと考えていたの。こんな私に呆れちゃったかもしれない。嫌われたかもしれないって思ったら寂しくて、私…どうしていいか…」
瞬間、シャルルは堪らないといった顔で私を引き寄せ、息も出来ないぐらい強く胸の中に抱きしめた。
「マリナっっ…!
どうして君はいつもそうなんだ。」
シャルルは絞り出すように言葉を続けた。
「オレが君を嫌いになるはずないだろ。君はオレのファムファタルだ。
何があったとしてもそれは変わらない事なんだ。」
シャルルはいつだって私を優しく包んでくれる。私より何かを優先させる事なんて今までなかったわ。きっとこれから先もそれは変わらない。
そんなシャルルを私は傷つけてしまったんだ。目の前の事に気を取られて何が大切なのか分からなくなっていた。ミシェルの行方よりもシャルルと話をする方が先だった事に今さら気付いた。
これまでだってシャルルと話をする時間はいくらでもあった。それなのに私はシャルルを傷つけたくないと思っていろんな事を隠し続けてきた。その事が逆にシャルルを傷つけてしまう事になるとも分からずに私は本当にバカだわ。
「オレはもう二度と君を離さない。
君がどんなにいやだと言っても離してやれない。君に狂いそうだ…だから…」
そこでシャルルは一旦、言葉を切る。
そして押し付けるように言った。
「ミシェルとのキスは忘れろ…。」
そう言うと私の唇に自分の唇を押し付けた。何もかも忘れてしまいそうな奪うようなキスにシャルルの嫉妬を感じた。
そして愛を感じた。
つづく
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みなさん、こんにちは!
台風も去り昨日は一転して夏日でしたね。関東では30度を超えたとか
そして今日もっ?!夏、やだなぁ…。
さてさて、お待たせしておりましたが、久々に更新する事が出来ました
あーでもないこーでもないと何度も手直ししているうちに時間が掛かってしまいました。残りわずかですがもうしばらくお付き合い下さい
次回、限定公開の予定です。
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そういった大人の話は苦手な方は飛ばしてお読みいただいても話は繋がると思いますので飛ばしてお読みくださいませ。